『ふふふ、このレビィ、良い仕事させていただきやした!』
授業中に届いたそのメールを机の陰で確認して、ルーシィはぎょっとした。
自信満々な一文の下には、写真がでかでかと添付されている。雑多な教室の中――仲良さそうに笑う自分と、もう一人。
かあ、と首筋が熱くなった。
(レビィちゃん…!)
ちらりと視線を投げるも、彼女はさも真面目な学生です、と言わんばかりに前を向いて背筋を伸ばしている。ルーシィは睨むのを諦めて、もう一度写真に目を落とした。
(もう、そんなんじゃないのに!)
自分が笑顔を向けているのは、これまた笑顔のグレイだった。その距離と雰囲気から、さっきの休み時間、二人で他愛の無い話をしていたときのだとわかる。
レビィはたまに、グレイを意識させるようなことをしてくる。彼女の中では、ルーシィの恋の相手として彼がふさわしいとなっているようだ。
(こんなの、どうしろってのよ)
しかし綺麗に撮れている。構図もバランスが良く、ルーシィ自身も、気に入っている方向から撮影されていた。
可愛いじゃない、あたし、と自画自賛して、ルーシィはくす、と笑った。レビィの思惑が透けて見えるため恥ずかしいが、悪い写真ではない。
グレイは相変わらずのイケメン具合だが、笑うとやはりやや幼い印象を受ける。その彼の肩越しに、さらに子供っぽい笑顔が写っているのに気付いた。
(あ……ナツ)
大口を開けて、けらけらと笑うような表情。誰と話していたのかは写っていないが、なんとも無防備な様子だった。女の子には無愛想な彼だから、きっと、相手は男子だろう。もしかしたら、ハッピーかもしれない。
斜め前の背中にはマフラーが揺れもせず垂れ下がっている。それと写真を見比べて、ルーシィは片肘を突いた。手の甲で、口元を押さえる。
(……あたし…とか、レビィちゃんには、笑うわよね)
画面の中の彼を指で弾いて、ルーシィはメールを閉じた。
「んー」
教師が教室を出て行った途端伸びをしたナツが、がたん、と椅子を鳴らした。大きく足を上げて前後逆に座ったかと思うと、背もたれに両腕を乗せてこっちを見やる。
「なんか面白いことあったか?」
「へ?」
「笑ってたろ。げへへへって」
「そんな笑い方してない!」
そもそも笑ったような記憶はないのだが、あったとしたら写真を眺めていたときだろう。何も――授業中スマートフォンを弄っていたこと以外は――悪いことをしていないのに、背中に汗が吹き出す。
ルーシィは慌てて、机の中からそれを取り出した。
「ちょっと、メール見てただけ!」
「どんな?」
ナツを乗り越えるようにして、ハッピーがとん、とルーシィの机に乗ってくる。それと同時に、グレイが席を立った。
「んあ?どこ行くんだ?」
「隣のクラス。貸した教科書、戻ってこねえんだよ」
ナツは訊いておいて興味がなかったのか、グレイには目もくれなかった。じっと、ルーシィの手元を覗き込んでくる。
「み、見せないわよ」
「えー、ケチ」
「ケチじゃない」
ナツは膨れたが、その溜めた息をぷふ、と解放した。思い出したかのように、ルーシィのスマートフォンを指す。
「それ使いやすいか?」
「え?うん、まあ…でも携帯と勝手が違うから、初めは結構戸惑ったよ」
「へー……」
ぴ、と手が伸びてきた。
「貸して」
「え…や、ヤダ」
ルーシィは後ろ手にスマートフォンを隠した。急に、熱を持ったように感じて指先が震える。
さっきの写メールはメールフォルダの一番上――もし万が一見られたら、恥ずかし過ぎる。
(あたしが撮ったわけじゃないけど!)
何故だか、グレイよりもナツが写っていることの方が後ろめたい。
彼はぎゅ、と眉間に皺を寄せた。
「あ?やっぱケチじゃねえか」
「へ、変なとこ見ないなら、良いけど」
「変なとこってどこだよ」
「ナツ。ルーシィ、怪しいね」
「怪しいな。貸せ」
「や、やっぱりヤダ!」
差し出された手のひらを避けて、ルーシィはスマートフォンをポケットにしまった。しかしそれだけでは逃げ切れないような予感がして、とりあえず立ち上がる。
最悪この休み時間は教室を出ていようか、と廊下を確認したとき、そこに黒髪が現れた。
手に一冊の教科書を持ったグレイは、ひどく疲れたような顔をしていた。
「どうかした?」
「いや……別に」
ナツが鼻をくん、と鳴らした。
「なんかお前、また新しい女の匂いすんな」
「……だからお前、そういう変なことルーシィに吹き込んでんじゃねえよ!」
ばん、とナツの顔面に教科書が叩き込まれる。
ガタガタと机を蹴散らす彼らに、ルーシィは避難しつつ、ほっと胸を撫で下ろした。