貴方の言う、貴方が守るべきステキな王子様とは、はて、誰のことでしょうか?



「ーーそんなに怖がらないで、貴方の力になりたいんです」


只々混乱していた頭の中に響いたその声が、私の唯一の道標になったのだ。


「ジェイドさん!」


ぱらぱらと人通りのある廊下で、今まさにどこかの教室の中から出てきたその人を見つけて声を上げる。石畳の床を掃いていた大きな箒をなんとか抱えてその人に駆け寄れば、わざわざ待っていてくれたらしい彼がにっこりと笑みを浮かべてくれた。
かっこいい。綺麗だ。いろいろな言葉が浮かんでくるけれどそれらは全く声にならないし、その完璧な笑みに頭の中が真っ白になってしまう。


「おや、お嬢さん。こんにちは、お掃除の途中でしょうか」

「は、はひ」


涼やか、というのはこういう声を言うんじゃないだろうか。耳に馴染みやすく優しい声が話しかけてくれる。
嬉しい、嬉しい。
思わず胸の前で箒を握りしめる。
彼の後ろで赤い髪の可愛らしい男の子が何も言わずに見てくるけれど、すぐにそれは気にならなくなる。


「お疲れ様です」


差し出されたのは黒い手袋をした手で、慌てて手を出せばころりと手のひらの上に転がった小さくて可愛らしいフィルムに包まれた、飴。
内緒ですよ?とピンと立てた人差し指を薄い唇の前に持ってきて、にっこりと笑うその顔。いつも大人っぽいのに、こんな時は決まって悪戯っ子のような笑みを浮かべる。
あぁ、好きだなぁ。それは決して口にできない気持ちだけれど、ありがとうございますとなけなしの勇気を振り絞って口に出す。
ジェイド、次の授業が始まるよ、と赤い髪をした男の子が彼の名前を呼んで、左右で違う色の眼差しが私から外れる。
そっと息を吐き出して。どきどきとうるさいほど鳴り響く胸に手を当てる。


「それでは、失礼しますね。お仕事頑張ってください」



始まりは


きゃぁーー!!という、滅多に聞くことがないくらいの甲高い悲鳴に騒めきが大きくなった。
ちょうど一緒昼を食べるために合流したアズールとフロイドの、というよりフロイドの手に引っ張られるままその人垣の元に向かえば、ちょっとした小さな池を囲む様に生徒たちが集まっているではないか。
怒っているようななリドルとヴィル。そしてめんどくさそうな顔をしているレオナに、人を散らそうと声を上げているのはクルーウェルだ。


「ーー何をしているのですか」


腹の底から湧き上がってくる笑いを必死に押し殺す。


「あぁ、可哀想に。怯えているではありませんか」


クルーウェルがこちらを見ている。一つにっこりと笑いかければ深いため息の後小さく頷いて、また集まっている生徒を散らす為に鞭を握り直したのがわかった。
自然と開けられた道を歩いて真っ直ぐにそれの前へと近付いて、少しだけ距離を開けて止まる。
あぁ、可哀想に。
池にでも落ちなのだろう、びしょびしょになった可愛らしい少女がそこにいた。怯えたような、青ざめた顔でこちらを見上げる彼女に、にっこりと微笑んだ。
安心してください、と優しく声をかける。


「ーーそんなに怖がらないで、貴方の力になりたいんです」


ーーー
なんでとこから始まる愉快犯ジェイドのわくわくストーリー
というか本当はやばいウツボのストーカーと化すトリップしてきたオリキャラの話



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