選ばれたのは当然だと思った。
御津、とはいわゆる芸名である。本名は別にあるが、御津はこの名をいたく気に入っておりプライベートでもこの名を名乗っていることが多かった。
手渡された台本と分厚い資料を見下ろせば、そこには野暮ったい髪が鬱陶しそうな、無愛想な顔をした男が一人写っていた。
大典太光世。最近人気のゲーム刀剣乱舞に登場するキャラクターの一人だ。
今回呼ばれたのは、その刀剣乱舞というゲームの舞台化に当たり大典太光世という名前のキャラクターを演じることになったからである。









「俺は美しいと思わないか」

その本丸にとって彼は異質な存在であった。
彼は審神者によって鍛刀された訳ではなく、ドロップされた刀である。本来ならばドロップされるはずがないと言うのに拾われた彼は、聞いていた刀剣とまた随分と印象が違った。
大典太光世。
本部からの紹介文では「天下五剣のひとつで、三池典太光世作の太刀。 同時代の刀剣とは作風が隔絶しており、その異質さからか枕元に置けば病も治るとされた霊刀。 小鳥などの動物が恐れて近寄れないほどの強い霊力を持つ。 普段は厳重に蔵に仕舞われていた正真正銘の蔵入り息子」と書かれていた。
蔵入り息子。噂では拗らせ方が酷いと聞いていたがこんなふうなのだろうか、予想とは違った。
無表情ながら自信満々とでもいうように胸を張りそう聞いてくる彼を見上げる。
そのセリフ、大包平に似ていますね???









「俺が怖いか」

よく通る声で、彼がそう言った。血に汚れた姿で、赤く染まった刀を振るって血を飛ばすその姿はまるで鬼神のよう。ぽたぽたと刀を握る手から血が滴り落ちる。それが己のか、誰のかはわからないが随分と不愉快だ。

「いいや、怖くない。とても、美しいなぁ…」

「俺はお前達が望むなら鬼を演じてみせよう」


そう言って、彼は凄絶な笑みを浮かべた。






(本丸襲撃あり、討伐部隊が本丸に乗り込む)






そこにいたのは鬼だった。血だらけになりながら、傷だらけになりながら、息絶えた時間遡行軍の中でただ一人。その大典太光世は立っていた。
ポタポタと刀から滴り落ちる赤い雫がどす黒い水たまりを広げている。そこはかつて庭だったのだろうに、死骸で足の踏み場もないほどだ。

「ーー俺の結界を破って侵入していたのはお前達か」

ぐちゃり、と彼の足が何かの肉片を踏み潰す。
こちらを振り向いた彼のその眼差しはまるで鬼だった。歴戦の審神者と刀剣達でさえその眼差しに射抜かれ一瞬、息をするのさえ忘れてしまった。
怖い。
あれはなんだ、こわい、大典太??なんで、こわい。
元来の彼であれば、己の強すぎる霊力により周りに影響が出るのを嫌がり自ら蔵に籠る程心優しい男だ。
それなのに、これは誰だ????
ひゅん、と一振り。ぱたた、と軽い音を立てて彼の刀に着いていた血が振り払われる。

「次は誰を斬ろうか」

紛れもない、鬼がそこにいた。
瞬間動いたのは山姥切国広と鶴丸国永、髭切だ。遅れて他の刀剣達も。







「ーーやめてくれ!!!」

「大典太!!!」


3人がかりで動きを鈍らせ折れない程度に実力行使をしたせいかぐったりと倒れ伏した大典太の胸倉を掴み引き上げたその時、聞き覚えのある声が響いた。
ぐったりと四肢を投げ出す血だらけの大典太を片手に掴んだまま顔を上げれば、嫌にボロボロな姿をして刀を片手にこちらを見る刀達がいた。三日月宗近、大包平、膝丸と、彼等に支えられたきっと彼等の審神者だろうボロボロになった一人の青年の姿だった。


「やめてくれ…!!」

「大典太、なんて事だ…!!」

「っ、」


あんまりなその姿に思わず声をあげたそこ審神者に、気を失いかけていた大典太の手がぴくりと動いた。


「引け!!」


誰が叫んだのか。咄嗟に大典太から手を離し飛び退いた鶴丸の、先ほど待って立っていた地面が深く深く抉れた。
どくりどくりと早鐘を打つ心臓を衣の上から押さえつけ、額から流れる汗を拭いもせずに抜き放った刀を握り直して鶴丸は彼を睨み付けた。
斬られたかと思った。胴を真っ二つに。現に彼を捕まえていた腕がざっくりと切り裂かれている。白い衣がじわじわと赤く染まり、主が悲鳴のような声を上げた。
崩れ落ちげほげほと苦しそうに咳をして、深く深く息を吸い込んだ彼は今まさに地面を抉った刀を握り直し立ち上がる。
ゆっくりと。彼が庇う様に移動したのはこの本丸の審神者と刀剣達の前だ。


「出てくるなと、言っただろう」

「き、君が!君が折れると!!」

「これしきの事で折れやしないさ。何せ、俺は霊験あらたかな刀らしいからなァ」


それに、と彼は目を細めて小さく笑う。無造作に拭われたのは頬にべったりとこびり付いて塊かけた返り血だった。代わりに手を濡らす血がより鮮やかな模様を頬に描く。


「…こんなに穢れた姿を、見られたくはなかったのだがな」


ーーーーー

自分に自信満々な主人公(光世似光世役舞台俳優)が本丸に飛ばされて光世と勘違いされる話!続かないよ!



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