余事が何事もなく終わった設定
・みんな生きてるよ!
・葵さんに厳し目だよ!
・おじさんは愛されてなんぼや!

ーーーーーー

「葵さんっ!」

私を呼ぶ声に足を止め振り返れば、ひょっこひょっこと足を引きずるようにして近付いてきた彼がへにゃりと笑って何か手伝うことない?と首を傾げる。
さらりとすっかり色の抜けた髪が揺れ、気の抜けた笑みに幼い顔立ちがよりいっそう幼く見えた。
顔の半分を覆う引きつれは以前よりもだいぶましになり、もう前みたく顔を合わせる度に悲鳴を飲み込むことなどなさそうだ。
間桐雁夜。
それが彼の名前。
今やすっかり風貌が変わってしまっているけれど、その温厚な性格はまったく変わっていない。

「ね、何か手伝うことない?」

そう言って眉を下げながら幼く笑う彼はその幼い雰囲気き相俟って庇護欲がわく。
何があったのか。
綺麗な黒髪は銀に近い白髪に。慈愛に満ちた光を宿していた瞳は片方が失明し白濁、もう片方も危うげな光を孕み。健康そうだった肌の色は白く血の気が失せ。凛々しさがあった顔立ちは何かが這ったような引きつれに覆われ、そのせいか怯えが浮かび。健康的な、それでも細かったその体はすっかり肉が落ちてしまっていた。
可哀想に、と思った。
あの日。
長くなるだろうと言われた魔術師が集まる聖杯を巡る戦いが唐突に終わって。帰ってきても大丈夫だよ、と連絡が来て家に帰ってきたあの日。
開催前に危険だからと家に帰された己と娘の凜。それに使用人達。
魔術師らしく機械とはまったくの無縁なあの人を一人にするのは不安だったけど、あの人に相応しい妻になるために従って。あの人の無事を一心に思いながら待っていた。
だからこそ待った。
一番にあの人にお疲れ様と言って、暖かい料理を振る舞えるその日を。
だからこそ、…。
私達を出迎えたのは暖かい光と美味しそうな料理の匂いと賑やかな声と、会ったこともない人達に囲まれて寄り添う二人の姿。
だからこそ、ぐるりと腹の奥で何かが蠢いた。
魔術師として。あまり詳しいことは言えないが。
話はそこから始まった。
あの人のが言うに、今回の戦争に参加するにあたり、参加者の中にいた一人である彼――卒業してすぐに出奔した幼馴染みにはまったくと言っていいほど魔術師としてのすべてが足りなかった。
魔力も、経験も。それこそ魔術師として必要な魔術回路も。
だから幼馴染みである間桐雁夜は一年という短い間で最低限の、サーヴァントと言うパートナーを召喚出来る域まで力をつけなくてはいけなかったのだという。
魔術というのは例外を除き長い時間をかけて、それこそ血の滲む努力をしなくては使うことができず、それこそ本当に魔術師と呼ばれるのは魔術を使う者達のほんの一部しかいない。
そしてこの一年で戦争に参加するために文字通り血ヘドを吐いた結果が今の彼――間桐雁夜であるらしいのだ。
容姿の変貌に加え、半身不随。片目の失明。再会したときには一人で歩くことさえ儘ならなかった。
いくらどんな願いでも叶える聖杯を欲していても、ここまでやる価値があるのだろうか。
結局彼は願いを教えてはくれなかった。
戦争が終結した今、彼と桜の治療をするために彼と共に桜を遠坂の邸で引き取ったとあの人は言った。
それが、すべての引き金だった。

「…葵さん?」

「え、ぁ、えっと、じゃあこれを」

「…――雁夜」

そして、唐突に響いた低い声が私の声を遮った。一瞬で彼の顔が不機嫌そうに歪む。
彼に差し出そうとした、ティーカップやポットが乗ったお盆は横から伸びてきた手に拐われていく。
む、と彼が眉を寄せた。

「雁夜」

「…ンだよ、時臣」

「まだ、休んでいなさいと言っただろう?Mr.アーチボルトが君を探していたよ」

「ケイネスは待っててくれる」

ーーーーー

この後鱒達にいいこいいこされるおじさんを見て葵さんの嫉妬心があわわわわ!!なお話になる予定だった気がしないでもない



prevnext



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -