レイチェルの才能。
 それは彼女曰く、お母さんからのプレゼントだということだ。だがダニエルの考えは違った。
 彼女の才能は彼女が生きてきた中で自ら勝ち取ったものである、と。
 冷徹な洞察力と飛び抜けた観察眼があわさり、生まれた才。
 それは、見抜くことだった。
 直感的に看破する。言い当てる。本質を見据える。
 幼い少女が必死に磨いた、能力だった。
 彼女は知っていたのだ。
 愛されるには演技しなくてはならないのを。相手が何を欲しているのか、敏感に感じ取り、そのために動く。望まれたことを体現することで彼女は生き抜いた。
 それは痛いほどの優しさだった。
 だが。

「武器になる……」

 ダニエルはそっと呟いた。
 見抜くというのはつまり、彼女の前ではどんな嘘も通じないということだ。
 出会った時のように、イカサマを看破する。
 まだまだ未完成な才能だ。
 揺れ幅も大きく、裏打ちのない直感ばかりだ。
 ただ、原石であることに変わりはない。磨き、形を整えていけば、どんな嘘も通用しない可能性がある。
 ふむ、とダニエルは一息吐いて顎を撫でた。

「おじさま? どうしました?」

 背後からレイチェルがとたとたと歩み寄ってくる。

「いいや、なんでもないさ」

 何気なく思考を片隅に追いやって、彼女の方へと向き直った。斜め下からの視線がじっとこちらを見て、そうして。

「……具合わるいなら、うそついちゃだめよ、おじさま?」

 レイチェルがそう首を傾げた。
 また見抜かれたか。
 内心ひやひやしつつも、ダニエルは微笑を浮かべる。

「大丈夫だよ、少し目が疲れているだけだからね」

 今度は本気で謀ろう、と気合を入れて嘘を吐いた。そうするとレイチェルはぱっと眉を寄せる。
 これも駄目か、とどきりとするものの、

「お目目のいたいの、とんでけー、ってしてあげるわ!」

 レイチェルはそう心配そうに言った。
 ……つまり、彼女のレベルはまだこの程度なのだ。
 だが、怖いのはここだった。
 嘘とも思っていないような日常の嘘、誤魔化し、婉曲、歪曲。それら全てを違和感やノイズとして捉えて、嘘として処理し、見抜けるのだ。
 問題は精度とその処理方法だろう。

「おじさま? いたい? へいき?」

 レイチェルが裾を引っ張り、心配そうに見上げてくる。

「レイチェル」

 ダニエルはしゃがんで、彼女がぺたぺたと顔に触ってくるのに委ねた。

「いたいの、いたいの、とんでけーっ」

 レイチェルは小さなその手でダニエルの頬を包み込み、そう唱える。そのまま額に軽くキスをした。

「レイチェル……!」

 ダニエルはあまりのことに狼狽して彼女の名前を呼ぶ。レイチェルはきょとんと首を傾げた。

「? こうするとおとこの人はいいんでしょ?」
「……、それは、私にだけにするんだ。いいね?」
「うん。じゃあ、おじさまだけにするわ」

 レイチェルはそう言って、もう一度、ダニエルの額にキスをした。




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