ダニエルは眠い目を擦ってラフなTシャツ姿でリビングへと歩いて行く。途中、物音がしてはっと身構えるも、昨晩小さな同居人が出来たことを思い出し、胸を撫で下ろす。
 レイチェルはリビングの、彼女にとっては高い椅子によじ登って、コーンフレークを食べていた。隣にはテディベアのダニーが鎮座している。

「――おはよう、レイチェル」

 そう声をかければ、ぱっとレイチェルがこっちを向いた。

「おはようございます、おじさま」

 ぽたりと掬っていたコーンフレークが皿に落ちる。それがカレースプーンのような大きなスプーンで彼女が扱いにくそうなのを見てとって、食器も揃えなくてはいけないか、と思いながらダニエルは椅子を引いた。

「レイチェル、朝食はいつもこうやって?」
「うん。さいきんは、お父さんは起きるといなくて、お母さんはお昼ごろ起きてたから」
「じゃあ、これからは一緒に食べよう。だが、私は朝が弱くてね。よければ部屋をノックしてくれるかな?」
「ええ! じゃあ、おじさまの分もお皿を用意するわ!」

 レイチェルはスプーンを置いてずり落ちるように椅子から降りた。なんとか手に取れる位置にある紙皿を取って、彼女は歩いてくる。
 途中でスプーンがないことに気がついて食器棚に踵を返した。開けっ放しになっている棚を背伸びして漁る。ダニエルはひょいと彼女を背中から抱き上げた。

「さ、スプーンを選んでくれ」
「じゃあこの銀色のにするわ! おっきくていいでしょ」

 レイチェルは花開くように笑って、スプーンを取った。

「よし、じゃあ明日から、レイチェルが私を起こして、二人で朝ご飯を食べよう」

 抱き直しながらレイチェルを席まで運び、ダニエルは笑う。

「ダニーもだから、三人よ」
「あぁ、そうだね」
「ねぇ、おじさま」

 レイチェルはスプーンを握りながら訊いた。

「……おじさま、おじさまはお母さんでも、お父さんでもないけれど、これからわたしといっしょにくらすのね?」

 ダニエルはコーンフレークの箱をそっと置いて、レイチェルを見つめる。

「今から君のお父さんや、お兄さんに、……家族になりたい、と思っているよ」

 レイチェルはじっとダニエルを見つめる。ダニエルは顎を撫でつつ言った。

「それとも、レイチェル。戻りたいかい?」

 君がそれを望むなら叶えてあげられる、とダニエルは言う。男の背後で、何かが揺らめいた。守護天使のように控える姿は見えざる彼の力だった。
 当然、幼い少女には見えていない。
 だが、少女は首を振った。

「――もどりたくないわ、おじさま。私もおじさまとかぞくになりたい」

 その宣言を聞いてダニエルは微笑んだ。

「可愛いレイチェル、良い子だ」

 手を伸ばして、髪の毛を撫で梳く。レイチェルはくすぐったそうに目を細めて笑った。

「じゃあ、レイチェル。これからは私が君の家族だ。誰かに聞かれても、そう言えるね?」
「いえるわ!」
「Good! 良い子だ、晩御飯はレイチェルの好きなものにしよう」
「わたし、おじさまの作ってくれるものがたべてみたいわ」
「……善処しよう」

 ダニエルはちょっと困った顔をしてそう呟いた。
 レイチェルはそれを見て、幸せそうに笑った。




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