弐
目が覚めた俺の目に飛び込んできたのは深海のような暗闇だった。
その中でぼんやりと見える茨と
「霧姫!!」
その茨に戒められた霧姫の姿だった。
急いで体制を整え彼女のもとまで走り寄る。
近くまで来た時に話し声が聞こえた。
その声は霧姫を捕らえていた男のもの。
嘲笑っているかのように何かを言っている。
男の声はよく聞こえるのに霧姫の声は聞こえない。
それに焦りを感じて足を速める。
「‥お前の愛しの鬼が来たみたいだな」
「霧姫!!」
「近寄らないで!!!」
霧姫は拒絶の言葉を叫んだ。
咄嗟のことで理解できずにその場で固まってしまう。
「何言ってやがる?そこにいたら帰れないじゃねぇか」
「帰る場所なんてもともと私には無かったんだよ。
‥私の血塗られた手じゃ誰も守れないから」
すると嘲笑うように男が俺を見る。
「この女はもう俺の"物"だ。
ま、お前に所有権が渡ったことなんて一度もねぇけどな!」
霧姫に絡む茨に手を置くと彼女を飲み込む速度が上がった。
あの中から霧姫を引っ張り出さないと彼女を失ってしまう。
何か方法はないかと茨を見つめているとその中に見慣れた赤紫の結い紐が。
あれは俺が髪が伸びてきた霧姫に初めてした贈り物だ。
『ありがとう、元親!』
嬉しそうに笑った彼女の姿が今でも鮮明に思い出せる。
「‥霧姫。俺はお前に何度も守られたし助けられた。初めて愛して愛されたと思ってる。
‥…だからな、分かるんだよ。
そこから助けを待ってることだってな!!」