魔王
魔界で最も強い者、それが魔王。
さっきも言ったが、今の魔王は竜の巣の先に城を構えている。竜人族（ズメイ）は最強の魔獣ドラゴンとの混血種だ。だが、代々彼らが魔界の頂点に君臨しているのかといえばそうでもない。一代前の魔王は確か……獅子族（レグルス）だったかな。魔王の座を守らんとする獅子族と、奪取せんとする竜人族との争いは地形が変わるほどに凄まじかったそうだよ。
結局は先述の通り竜人族が魔王となり、破れた獅子族は散り散りになってしまったそうだ。元々希少種だったうえに戦いで更に数を減らしたものだから、最近は獅子族を見かけることは難しくなっているね。
魔王になることのメリットらしいメリットは魔神の解放や封印ができるということくらいかな。魔神なんて本当にいるのかどうかもわからないが……っと、魔神信仰者に聞かれたらまずいかな。
魔王を目指すものの多くは「魔人最強」という称号を欲しているにすぎない。名声や名誉というやつだ。魔界でそんなの欲しがるのは余程暇と力を持て余している奴等だけだね。魔王の座を奪った所で、それを守るために常に強くあらねばならない。敗ければ「最強の魔人」ではなくなり、即魔王の称号を剥奪されてしまうからね。老衰し力が弱まったときには自らの子の手によって倒されることで魔王を継がせ、一族の名誉を守る。どうだい、暇人じゃなきゃできない芸当だろう。人間はこういう輩を野心家と言うのだったか。
魔王で思い出したが、魔界各地には旧王族……魔王の座を奪われて落ちぶれてしまった一族が現在も残っているんだ。先の獅子族はあちこちに散ってしまっているが、ウクオドケの森の蟲人族（エンセトゥム）や、湖底の魚人族（マーマニー）あたりは今でもまとまって広いテリトリーを維持している。蟲人も魚人もかなり古い時代から魔界で一定の勢力を保っている一族だ。かつて魔王だったこともあるぐらいだから、当然力も強い。そして……その長たる魔人やその取り巻きは大抵「魔人らしい魔人」だ。街中でごっこ遊びをしてる連中より格段に本能的で残忍なのさ。
魔女はこっちから触らなきゃ何もしてこない……はずだが、旧王族の残党はテリトリーに入ったものに対して見境なく襲ってくるから、ある意味魔女より厄介かもね。人間上がりは特に狙われやすいそうだ。油断してると生かさず殺さず弄ばれることになるぞ。
そういう趣味なら止めないけれど……君は違う……よね？
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