魔女


 魔界で暮らそうというのだからあれこれ忠告してもキリがないし意味もないが、これだけは注意しておいてほしい。魔界には名高い魔女というやつらがいる……東西南北の称号を冠するオズ派の魔女には出来る限り近付くな。具体的には東の一寸闇、西のダヴォラ、南のソルディノッテ、北の灯下暗、俗に言う「魔女四家」のことだ。

 話せば長くなってしまうのだけどね、魔人というのは元々魔法の素養がある。先天的、本能的に魔力の使い方を知っているのさ。そこいらには古くから魔法技術を守り向上してきた古代魔女も多くいるが、東西南北の魔女はそいつらとは別格だ。
 オズの魔法というのはいわば新興流派なんだが……と言ってもできたのは何千年か前だけどね、これがとても強力で凶悪なんだ。人から外れた魔人をして凶悪と言わしめるオズ家の魔法は世界の理すら歪めたという。かつて各地で隆盛していた古代魔女達を「野良魔女」に貶めてしまったほどで、今じゃ単に「魔女」といえば大抵はオズ派の魔女を指す。そのせいか古代派の中には未だにオズ派を良く思っていないのもいるね。
 オズ家は一説では全能を実現していたのではないかとまで言われているが、何故か彼らは魔界から姿を消してしまった。しかしその魔法技術は四人の弟子に受け継がれ、それぞれが魔界四方の大家の祖となった。
 東西南北、魔女四家の頭主が結託すれば魔王も魔神も難なく倒せるとさえ言われているが、幸いなことに四家同士は仲が良いというわけでもないようだ。四家それぞれが、始祖であるオズ家の技術を分割して受け継いでいるせいか、研究知識や情報を他の家に漏らしたくないという話だ。

 多少の小競り合いや欲求解消にはだいたい古代魔法でカタがつく。しかしどうしようもなく絶望に近い状態からの脱却や、より高レベルな技術の取得のために、オズの魔法の力を求めるやつらもいる。そいつらがどうなったかは……よくわからないな。四家の魔女にまみえて帰ってきたやつってのは少ないからねえ、たとえ帰ってきたとしてもまともに会話できないなんてこともある。
 たまに行方不明になった魔人にそっくりの人形やイキモノを魔女が連れていたとか、よろずやの商品にはバラバラにされた魔人が使われているって噂も聞くけど、どうなんだろうね。

 機嫌をとっておけまでとは言わないが、敵にはしないほうがいいだろう。向こうもこちらから手を出さなきゃ何もしてこないはずだ。
 それでも、もし魔女の力が必要になることがあったら――まあその時点で絶望的だろうが――よく考えることだ。


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