中央


 ムカデパイは気に入ったかい? 味覚なんてとうにおかしくなってしまっているだろうから、不味いと感じることはないだろうけどね。
 ああ、金のことは気にしないでいい。ここの店には顔がきくのでね。それに金銭のやりとりなんてあってないようなものだ。人だった名残で形だけ真似ているだけさ。商売だって利益を求めてやっている奴はほとんどいない、職業ってのはほとんど趣味と同義なんだ。わたしが「案内人」をしているのもそういうことさ。
 勤労の対価なんてものを有難がるのは人間だけ。街をつくり、見かけだけの「社会ごっこ」をしている者たちはただ「何もしない」ことを選ばなかっただけにすぎない……つまりみんな暇をもてあましてるんだ。

 君は何かしたいことがあるのかな? 来たばかりじゃ何も思い浮かばないか。まあゆっくり考えればいい。ここじゃ時間は無駄遣いするくらいでないと使いきれないからね。
 うん? 魔界のことをもっと知りたいって? 賢明だね。何かするにはまず「知る」ところからだ。「何もしない」ことを選択するのは別にその後でも遅くない。

 ではまず何から話そうか。とりあえず地理かな。土地についてまず大まかに把握しておいた方が解りやすいかもしれない。
 この街は魔界の中心、魔王城の膝元にある。おそらくは「何かする」には一番適した場所だ。最強の魔人、魔王の手が届くところだから荒くれは集まりにくい。つまり邪魔者がいないのさ。趣味を遂行するには都合がいい。外の大通りを見ただろう? ずらりと並ぶ商店と住宅。整えられた道と街路樹、花壇。笑っちゃうけど、このあたりは人間界とさして変わらないかもね……外見上は。あくまで「ごっこ」、「遊び」、あるいは「趣味」の領域だ。誇りや矜持なんてものを抱いているヤツなんて少ないから、中身は案外いい加減さ。

 少し話が逸れたかな。で、この街から少し北東の高台に魔王城がある。ほら窓から見える、黒くて大きな建物。あの城に魔王とその一族が暮らしている。周りに高い柱のようなものがたくさんあるだろう。あの辺りは魔王の眷属である「竜」の巣だ。昔は火山地帯だったらしい、あの柱も地下から噴き出た溶岩が固まってできたんだと言われてる。
 で、魔王が一声あげれば数百、数千の竜が一斉にあそこから翼を広げて飛び立つのさ。その様は圧巻だが、竜の群れに見つかったらまず命はない。
 竜の巣を抜けた先にはそれは美しい庭園があるというし、どうしても観光に行きたいというなら止めはしないが、気を付けたまえ。自殺には最適の場所だから、もし生きるのに飽きたら足を向けてもいいかもね。

 万が一、最強の魔人となって「魔王」を名乗りたいと思ったなら……あの竜の巣を越え、待ちかまえる魔王を倒すことになる。君がそれほどの猛者になるとは思えないが……いや、失礼。
 もちろん魔王は竜の群れが束になっても、ものともしない強さだからね。竜一匹も相手にできないうちは無茶しない方がいい。


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