序
やあ、君は新入りかな?
ここはあらゆる魔物とヒトから離れたモノが棲む世界。「魔界」って言われることが多いかな。
君がこの世界に来れたということは、どうやらヒトの理からはみ出してしまったようだね。安心しなよ。君を捕って食おうなんて奴いないからさ……たぶんね。
ただ少しだけ忠告しておこうか。この先、君はずっとこの世界で暮らすことになるのだろうから、頭の片隅にでも刻んでおいてくれ。
魔界には義務もなければ権利もない。あるのは果てしない自由と、どこまでも深い混沌、それに少しばかりの好奇。
何をしてもいいし、しなくてもいい。ただ行動するなら失うことを恐れちゃいけない。所有物も、理性も、自らの命でさえも。この世界に法律なんて無いけれど、躊躇いが一番の罪悪になる。
君が何をして、何を言って、何を考えようが文句を言ってくる奴はいないだろう。ただ、多少は恨まれるかもしれないね。責任なんて負う必要は全くないが、見通しは立てたほうがいい時もある。死にたいなら別だがね。
魔界じゃ理不尽は日常と同義だ。意思は差し出してもいいが頑なに守りたいならそれでもいい。狂うのが早いか遅いかの違いだ。ああ、ここにいるってことはもうイカれているのかもね。
長くなったけど、魔界で生きるなかで大事なものはただひとつ。「力」だよ。強ければまあ長生きできるだろうね。
じゃあ新入りの歓迎会といこうか。ムカデパイでも奢ってやるよ。
ああ、忘れてた。わたしが君をこうして案内しているのは単なる趣味だ。君が嫌がろうとも飽きるまでは一緒にいさせてもらうよ。
では、行こうか。
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