エピローグ
今ならあの時の自分の気持ちがよくわかる。
空想の花を手に握りしめて、その綺麗に咲いた花びらを一枚、また一枚と引きちぎっては
“楽しい、楽しくない……”
と唱えてた気持ちが。
きっと自分を保てなくなることをそれで紛らわせてたんや。そうして現実から目をそれさないと生きていけないから。良いか悪いかよりも、生きていくのに必要な事やったから。
自分の心の最後の砦。それができなくなってしまった時、もう僕はこの世界に戻ってくることはなかったんやろう。僕の境遇を耐えられる“ボク”が生まれて、今までの僕と入れ替わり、やがて心の奥深くに潜って眠り、そうして消えてしまう。
昔、
「在有って名前はね、大好きなお父さんとの間に生まれて来てくれて、ありがとう、って意味なんよ」
って、お母さんはにこやかに幸せそうに、本当に幸せそうに言っていた。
毎日、呪文のように唱えるそのセリフは、お母さんにとって精神安定剤やったんかもしれない。綺麗な思い出に浸かり、心を保っていたのかな、そうしないと現実に負けてしまうから。
いろんなことがあって、随分長い事生まれてきたことに感謝の気持ちなんて湧きもしなかったけれど、今はお母さんにちゃんと報告できる。
「生んでくれてありがとう」
と。
終
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