君と未来を歩む | ナノ




変わらない日が始まる



『クラス違ったなァ』
桜が散る中場、下駄箱付近に貼り出されたクラス分けの紙をじっと見つめる。
下ろし立ての黒い制服がごわごわする感覚に思わず詰め襟の位置を直すが、変わらない違和感に顔をしかめる。

「君は2組、僕が1組か。小学校の成績表で分けられたのかな」
『てめーそれはおれがおバカだって言いたいのか?』
「まさか」
まとまってしっとりとしたみどりの黒髪を揺らし近づいてくるのは、幼馴染みの岸辺露伴。親友だ。つい先日おれが身長を追い越したことでちょっとしたケンカをした。
『それはそうと、今回は騒がねえーんだな』
お返しにそう言ってやるとあからさまに機嫌が急降下した彼は、子供じゃああるまいしと低く吐き捨てて体育館へと向かって行ってしまった。おれが謝るまではあのままだろうなとは思うけれど、もう少しクラス表を見ていたいので放っておく。





自分の組にいる人間の名前を把握し、他のクラスも見ようとすると、のしりと後ろから重みのある何かがのし掛かってくる。

「よぉ幸彦!俺と一緒の組だな」
声は知っている人のものだ。
『七海。こうして見ると長い付き合いだよなァ』
「なにせ幼稚園からの付き合いだもんな、そりゃ長くもなるさ」
指折り年月を数える友人を後目に、全てのクラスの紙に目を通す。別にこの場で全部覚えられるわけではないのだが、なんとなくこういうものは全部見ておく癖がついている。説明書を端から端まで気がついたら読んでしまっているのと同じだ。

「ざっと9、10年だな」
『ならおれと露伴は8年の付き合いか』
よし、見終わった。そろそろあの野郎をなだめに行くことにしたんで、七海を体育館まで一緒に行こうと誘う。
「8年ン?お前らいつもベッタリくっついてるし、俺らよりも長いと思ってたぜ」
『んなわきゃねーだろ〜、露伴が幼稚園来たときの事ぐれー覚えてろよな』
「覚えてる訳が無いだろガキの頃なんて。……おい、相方がお待ちだぜ」
指差す方向を見れば、体育館の入り口付近の壁にもたれかかりながら半目でこちらをにらむ露伴がいた。おれが気づいた事が分かると舌打ちし、見下ろす仕草と手のひらを上に向け手招きをしてきたので、素直に七海と別れてそちらに向かう。
ここで申し訳なさそうに小走りで行けば、少なくともこれ以上冷たい沸点が低くなることはないだろう。


速攻でばれてしまったが。
「僕に小細工が通用すると思うなよ、特に君のようなヤツのはな」
『悪かったってェ』
「そもそもお前は「まぁ〜た幸彦が露伴のこと怒らせてやがるぜぇ」
「いーけないんだいけないんだ、せんせーに言っちゃーおー」
『秋雄、太一、お前らもか』
幼なじみグループが今ここに。皆そろって学校指定の制服を着ているけれど、どうせすぐ大きくなるからと一回り大きいそれがなんだか似合っているようなそうでないような。すそ余ってんなあー。
ちなみに飯田くんは家からの距離の関係で、都内の別の中学に進学するらしい。連絡先は交換したので、元旦には年賀状を送るつもりだ。
周りを見ると他の人達も似たようなモンだ。さっき入学式の会場に入っていった女子二人は同じクラスになったことをお互いに喜んでいた。


友達がぎゃあぎゃあやってるのを流しながらぼんやり体育館に吸い込まれていく新入生を眺めていると、じっと自分も見られている感覚。露伴だ。
「別にいつもと変わらないな。ちょびっと入学ってイベントに夢を持ちすぎていたみたいだ」
『そうか?なんだか特別な感じするだろ〜?あ、でもここの生徒、ウチのとことあと二つの小学校持ち上がりなんだと。つまり三分の一が同小』
「どうりで。感動も何もないな」
そのすぐ後ろを、期待に胸ふくらませってのが似合う顔つきをしたやつが通って行く。次の女の子は不安そうな顔で会場を覗きこんで、それからやっと入っていった。だけど、おれの親友は過剰な期待もぼんやりとした不安も何一つ持ち合わせていないようなツラで柱にもたれかかっている。
どうしてこうも違いが出てくるのか、と親友と周りとの違いに呆れかけた時、そいつは騒ぐ友人達から目を離してこちらに目を向けた。

「ひとつ、思ったんだが」
『?』


「中学生になっても不安が無いのは、幸彦。君がいるからってのもあるかもな」
ふわりとめったに見せないような笑顔をつくる露伴に、何も言えなくなった。



「おい、お前らもそろそろ入るぞ」
「分かってるさ。おい、幸彦……幸彦?」
自分が呼ばれているのに気がついて、慌てて後を追いかける。
さっきは動けなかった。何とも言えない感覚。率直に頼られていると伝えられた時の感情はこっ恥ずかしいというんだろうか、嬉しいというんだろうか。

『………』
「緊張しすぎじゃあないのか」
『ウルセーなぁ〜てめーのせいだぜッ!』
ただ、隣に並ぶこいつがこれからもずっと傍にいることに、確かに安心を覚えた。





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