劣等感とはこんなもの
しかしたった2ヶ月かそこらであんなにものう力がアップするなんて、露伴はやっぱり絵の天才なんだな。そう口に出したら、「努力の結果であって最初から上手な絵をかける人間なんていない、そもそも……」と長ったらしいお小言をたれはじめたので、急いで逃げ帰った。
でも、やはりあれはあいつの“才のう”……なんじゃあないかとおれは思う。普通の人だったらまずあんな速くえんぴつを動かすなんてむりだろうし、それを露伴がなんなくやってみせたってことはもう努力ってだけじゃあすませない。図書館にあった伝記にかかれた人たちだって、小さい時からなにかすごい才のうを持っていたって言われていたんだ。
モーツァルトが5才で曲を作ったように。
エジソンが人の何十倍も知りたがりやだったように。
あいつのばあいははやく上手に絵をかけることがそれなんだろう。
自分の友だちがせかいのえらい人と同じようなすごいものをもっている。それはうれしいことだ。だれかにじまんしたいぐらいだ(露伴にはだれにも言うんじゃあないぞと言われた)。
でも、おれにはなんのとりえもない。それがあの日からずっと、おれの一番のなやみになっていた。
「で、何でおれにそうだんしようと思ったんだ」
『いやあ〜ユキちゃんにふられっぱなしなのにあきらめない所は才のうかなって』
「てめえ」
『うそだよ!ホントにタイチがたよりになるから来たのさ』
もうお分かりだろう、おれがさいしょにそうだんしたのはタイチだ。この前24回目の告白をしてまたくだけたらしいが、本当はクラスのリーダーをはれるぐらいに頼もしくてみんなの人気者なんだ。言ってなかったけど。
さっそくこのなやみを打ちあける。もちろん露伴については言わないでおく。
「ほォ、友達が自分よりすごいやつだったら…か」
タイチがあごに手を当てた。
『それでさ、そいつのことがじまんしたいぐらいに好きなんだけど……おれ自体は何のとくぎも持ってなくてさ。べんきょうも体いくもそこまで良いわけじゃあないし』
「フーム」
むずかしい顔をするわれらがリーダー。おれがこの一週間どれだけ考えてもかい決しなかったんだもんな、かん単に答えられるはずが……
「幸彦もなんかとくぎ作れば良い、ってのはもう考えたんだよな?」
『それだ』
「おまえバカじゃねえの?」
ばかとはなんだ。
おかあさんの知り合いの人にたのんで、ピアノをひかせてもらった。
けんばんのどこを叩いたらどんな音が出るのか教えられても分からなくて、一時間ずっとドばっかりならした。
本をたくさん読もうとした。
3さつであきた。
べんきょうをもっとがんばろうとして、一日中ずっとつくえにはりついてみた。
ねた。
露伴の絵をかいてみた。
本人に見せたら、「なんだそのブタ」と言われた。おまえだよ。
二重とびにちょうせんしてみた。
5回までできたけど、これはとくぎじゃあないな。
やっぱり、おれは露伴のようにはなれないんだろうか。
ためいきをつくおれの横で露伴がむずかしい顔をしているのを、その時のおれは気づかなかった。
prev|next
←