後ろの空席
俺の後ろの席はいつも空席だ。
県立黒沼高校に入学して以来、後ろの席の高橋君は一向に姿を見せない。
こんなド田舎のバカ高校なんか来る楽しみなんて無いだろうからな…
入試だって名前を書けば受かる位だ。
俺は家近いからこの学校にした。
なーんにも無い。夢とか希望とか何も。やりたい事とか何も。
だから、学校なんてどんなにバカ校でもどうでもいいんだ。
俺は授業中のクラスを見渡す。
俺は平凡。ボンクラ。
東君みたいにクラスのムードメーカーではないし。
酒井君みたいにイケメンハンサムでもない。
ましてや、小林君たちグループみたいに不良でもない。
普通だ普通。俺は。
俺みたいな奴はクラスに一杯いる。
だけど、俺ほどつまらない奴なんているだろうか。
…いない。皆、何かしら持っている。何かに燃えている。
俺には何もない。
…あった。俺がこの高校での唯一の楽しみ。
後ろの席の高橋君の正体だ。
もう入学式から2週間が経つのに、未だに姿を見せない彼。
気になっているのは俺だけじゃない。
周りのクラスメートも噂している。
登校拒否じゃないかとか、不良じゃなないかとか…。
彼は俺の後ろの席。
そこはいつも空席。
◆◇◆
酒井君はモテる。本当にモテる。
今だって女子たちに囲まれて楽しげに会話をしている。
俺と彼の違いって何だろうか?
顔?性格?…顔は当然だし、性格に至っては壊滅的だな。
…何か俺という人間を全否定されている錯覚に陥る。
「瀬戸君…大丈夫?顔色悪いけど。」
いつの間にか彼が目の前に来ていて心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。
…ビビった。何で酒井君が目の前にいるんだ?てか、顔近ぇーよ。
「あ?何か言った?」
「ちょっと瀬戸っ!酒井君の話聞いてなかったのっ!?」
…誰だ、この女?
「うるせーよ、ヒステリー女。」
「はぁっ!?」
女はこれでもかって位に、目を見開いた。
斜め前の方から、小林軍団が俺たちのやりとりを見ていたらしく、爆笑していた。
それによって更に女がイライラとし、体をわなわなと震わせた。
「…信っじらんないっ!最っ低…覚えてなさいアンタ。」
そう言って、ヒステリー女は俺の席から離れていった。
「ごめんよ、瀬戸君。彼女には俺から言っておくから。」
何だか申し訳無さそうにしている酒井君。
「…あ、ああ。」
てか、何で酒井君がここに居るんだ?
何だ、今の無駄なやりとりは。
酒井君も、ヒス女も意味分からん。
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