夢の始点




―公立今那所(こんなところ)中学校卒業式前日。





「可奈女ー、帰るわよー。」

「…葉子」


そう言って葉子は、私の鞄を強引に掴んで歩き出した。


「ありがと、葉子。」

「ったく、相手する気無いなら、あんな連中無視すればいいじゃない。」


下駄箱まで着くと、葉子は私に鞄を押し返す。


「…なんか悪いじゃない。」


私は先程までクラスの男子達に囲まれていていた。


「…あんたって結構残酷よ。付き合う気、全く無いんでしょ?卒業式前日なんだから相手が期待するだけじゃない。」


この隣で呆れている子は、手島 葉子(テシマ ヨーコ)。家がお隣さん同士の幼なじみ。

身長は私より5センチ高い160センチ。少し気が強い、見目麗しい日本美人。





そして…密かに私が想っている人。





レズビアンなんて所詮報われない。


「あんた、そんな可愛い容姿してるのに何で男嫌いなのかね。…好きな子とかいないの?」


あなたです。あなたの事が昔から大好きなんです。


「…別に男嫌いなんかじゃないよ。」


ただ恋愛対象に入らない。それだけ。


「ふーん。…向井君だけは取らないでね。」

「取るか。」

「うふふっ。ねぇ可奈女、駅沿いのケーキ屋さんに寄らない?」


葉子は嬉しそうに私に腕を絡ませる。

…こう言った仕草が一々本当に可愛い。


「えぇー、私甘い物苦手だからなぁ〜…。」

「ばーかっ、んな事は知ってるのよ!私が食べたいの。あんたは付き添い。」


この女王様めっ。


葉子は未だに私に腕を絡ませたままだ。


「はいはい。」

「うふふっ。それでこそ私の可奈女よっ。本当に…あんたが男だったら良かったのに。」


何度言われたか分からないこの言葉。


葉子、さっきの葉子じゃないけど、あなたも私からしたら残酷。それでも好きなんだから仕方がない。








店で葉子は、細い身体なのにケーキをあっという間に5個も平らげる。
私はその光景に唖然としながらもコーヒーを啜った。





暗くなり始めた帰路、葉子はしんみりと語り出した。


「…明日で卒業だね。」

「…うん。」

「あんたの隣に居られるのもここまで、か…。」


葉子は寂しいのを紛らわすように笑った。


「そんな事は無いっ、絶対にっ!!!」


私は葉子の言葉に苛立ちを隠せない。


「…あるよ。だって、あんたの行くとこ辺鄙な場所にある女子校でしょ?しかも寮付きの。」


…確かに。下心満々に選んだ、今年4月から私が通う高校だ。








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