猛獣チワワ






俺のクラスにはチワワの皮を被った猛獣がいる。


その生物は小柄で、髪の毛は肩につかない程度の長さをふんわりとさせ、ミルクティー色に染めあげられている。肌は新雪を思わせる如く白く、おおよそ男のものとは思えない程きめが細かい。血流が元から良いのか、頬はほんのりと淡い赤みをさしている。目は所謂猫目と云うやつで、睫毛はくるりと長かった。唇は少し酷薄な印象がする位薄かったが、健康的なハッキリとした赤が目に鮮やかだ。

見た目は何処からどう見ても欠点の見当たらない美少女。…てか男子校なのに何故か女子の制服着ているし。或る意味、相当な問題児だ。


現在、猛獣チワワは俺からは遠く離れた斜め前の席で、鏡を見ながらマスカラをずっと塗っている。

普段は美少女みたいに均等に整った玉のような顔がとんでもない事になっていた。はっきり言ってホラー映画に出てきそうな顔だ。無論、化け物役で。
でも、猛獣チワワの事だから、そんな事を指摘でもしたら、即刻、手足が飛んでくるだろう。俺は何度もその光景を傍目から見てきた。あの外見でチワワは中身が暴君だから、初対面の奴らはまず度肝を抜かす事と思う。俺の場合は、暫く現実に起こった事が理解出来なかった。ギャップが凄まじいのだ。

そんな猛獣をずっと観察していたら、猛獣は急に俺の方に振り向き、眉間に痕がつきそうな位皺を寄せられ、鋭い眼孔に睨まれた。

俺はと云うと、そのあまりの恐ろしさに身体の震えが止まらず、なんだか泣きそうである。

しかし、クラスメイトはそんな俺を見てガタガタと震え出す始末。俺なんかより絶対に猛獣チワワの方が恐いぞ。
…なんて、友達0の俺は今日も胸中に吐き出す。人付き合いが苦手で社交性皆無、そんな自分は、人より寂しい青春時代を送っていると思う。

そんな事考えていたら、急に目頭が熱くなってきて、これはマズい、と思った。

今は昼休みで、まだ午後に2コマ授業があるが、そんなもの受けてなんかいられない。

急いで寮に帰ろうと席を立ち、扉へ向かう。

俺が動き出すだけで、クラスの空気がピシッと固まる。そんな些細な事にも今の俺には辛くて、心がズキズキと痛み出す。

一刻も早くこの教室から出たくて足を早めようとした時、右下から伸びてきた足に自分の足を取られ、顔面から盛大に転んだ。

教室中が凍りついている中、上からはクスクスと一匹分の陽気な笑い声がする。


「あははっ、だっさ〜い。いつも私を睨んでるから、こうなるのよ?えーっと、獅子崎君だっけ?」


…あぁ、猛獣チワワだ。いつの間に教室の後ろに移動してきたんだろう。


「ねぇ、聞いてる、の…」


無理矢理、顔を上げさせられたから、涙にまみれた自分の顔を隠す事が出来なかった。








戻る

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -