麹町と咲山




「耶子さん、今日もあの不良が門の前にいるのだけど…」

朝、家を出る支度をしていると背後から母様の不安気な声が掛かった。


「ほんと…何度追っ払っても戻ってくるのよ。あの野良犬。警察にでも相談しようかしら?」

母様は朝から髪を纏め上げ、ピシッと和装も決めているけど、…言葉は美しくない。


「野良犬なんて酷いわ。あれでも、私のクラスメイトよ。」


まぁ、心の中では私も病原菌とか罵詈雑言だけど。


「じゃあ、耶子さんの御友人?」

「いいえ、それは違うわ。」


何で私があんな汚い生き物と友人なのよ。

「行ってきます。」

「今日も学業頑張ってね。」


家を出ると、やはり門の所に咲山が背中を預けて佇んでいた。


「そこの不健康優良児。」

「…麹町。」

「あんたみたいなのに家の前に居られると迷惑なのよ。」

私が門を出てスタスタと歩き出すと、咲山が慌てて私の後を追う。


「…」

「…」

私の隣で無言で歩く咲山にげんなりとする。朝から私を待ってた癖に、何も話さないってどーゆう事なのかしら。下等生物の考える事はよく分からないわ。


「き、昨日の…」

突然喋りだしたかと思ったら、彼は苦々しい顔をしてそのまま俯いてしまった。

「…何よ。」

「…昨日の男は、誰だ。」


朝から咲山の金髪が眩しい。

「は?」

「…〜っ!!帰りっ!!一緒に居ただろっ!!」


何、怒ってんのかしら。この馬鹿は。
しかもこんなに汚い大声をよく恥ずかしげもなく世に出せるわね。


「あぁ…あれは中学の時の後輩よ。私が誰と居ようが私の自由。あなたには関係無いわ。」

「…関係ならある。」

彼は傷ついた顔を隠しもせずに言う。


「麹町が…好きだから。」

「私はあんたの彼女じゃないわ。」

私の言葉に咲山は更に眉間に皺を刻む。


「…それでも。好きなんだもん。」


咲山は顔を赤らめ、目を潤ませながら呟いた。

最後の方は消え入りそうな声だった。


そんな咲山を横目で見て、私は内心激しく動揺していた。


いや、だって、これは汚い獣よ?あの下等生物の咲山よ?人類じゃないの。美しさの欠片もないのに…


かゎっ…


「…麹、町?」

「は?」

「顔、赤いけど…大丈夫か?」


咲山の手が額に伸びてきたので咄嗟に回避した。

咲山はあからさまに傷ついた顔をする。


私とした事が…どうかしてたわ。もう少しで病原菌に侵食されてしまうところだった。








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