愛憎
殺したいほど誰かを愛したことはありますか?
◇◇
梅雨晴れの清々しさの残る朝に夢精して死にたくなった。
その日見た夢と云うのがまた腹ただしい。
何でよりにもよって男とヤッた夢なんだ。何でよりにもよってアイツなんだ。
きっと溜まってたんだ。アイツとのキスの感触が残ってて。アイツの傷ついた顔が忘れられなくて。…それにしてもどうかしている。
アイツはどれだけ俺に爪痕を残せば気が済むんだ。
考えたら一層腹ただしくなって、家を出る時間なのに再び不貞寝してしまった。
…話さないといけない。どういうつもりか聞き出さないと気が済まない。
そう決意して、例の如く昼に登校したものの片山は休みだった。
「風邪みたいよ。」
俺の言わんとしている事を悟ったのか、前田さんは弁当を咀嚼しながら言った。
「別に何も言ってないだろ。」
「あら、ごめんなさい。」
全然悪いと思っていない言い様だ。
「山田君とはどうなんだ?」
この学校に来てから友達と云う友達がいない為、仕方なく隣の前田さんに話し掛ける。
「…別に。ただのクラスメイトよ。」
その顔はあの時の必死だった前田さんとは打って変わって冷静だった。
「何だ。好きだった訳じゃないんだ。」
何故かホッとしている自分に驚いた。
「いい加減にしてよ。」
「は?」
「…気づいてないの?」
周りを注視すると、女子生徒達がグループで弁当を食べていながらも、こちらの会話に耳をそばたてていた。
「…ごめん。」
「男子って馬鹿ね。」
前田さんの言葉に苛立ちながらも、自分の総菜パンと牛乳に手を付け始める。
「…でも、大場君って他の男子より親しみ易いわ。」
「そーかよ。」
「…私も虐められた事があるから。」
前田さんの弁当を食べていた箸が止まった。
「流石に大場君ほどでは無かったけど。」
「毎日が地獄だったよ。俺は。」
また片山の顔が頭の中に浮上し、舌打ちを鳴らす。
「だけど。私思ったの。虐められていた自分にも原因があったのかも知れない…って。」
「…それは片山に虐められたのは俺に原因があるって言いたいのか?」
「0では無いわ。あなたに限らず。だから、相手の事を知ろうとしないと。」
前田さんの箸を持つ手が再び動き出す。
「アンタは真面目すぎる。だから虐められるんだ。」
「…」
「…まぁ、また虐められたら俺に言えよ。」
そこから前田さんが再度語ることはなかった。
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