梅雨場の転校生




これで何回目の転校だろうか。

もう二桁は超えたのか…また同じ地に戻って来るとはな。

「では、大場君。自己紹介を。」

初老の担任が曲がり始めた腰を労りながら俺に声を掛ける。

「石川県から来ました、大場 農です。小学校の頃、この地に少し住んでいました。俺の事を知ってる人も知らない人も宜しく。」

担任の黒田先生が「はい、拍手」と手を打つと、クラス中が拍手で一杯になった。

男子と女子が半々のクラス。拍手をしているのは女子ばかりで、男子は寝ている者もいれば、友達と馬鹿騒ぎしてる者もいる。

ふと、視線を感じ。その方向に目をやると、窓側の一番後ろの席で、腕を組んでいる黒髪短髪の男がギロりと俺を睨んでいた。

顔は割と端正な顔なのに、勿体無い。

「大場君、席はそこね。真ん中の席。クラス委員長の前田さんの隣。」

黒田先生は背中が曲がり始めたとはいえ、175位はあった。

「先生、奥さんは?」

「ほほほ、気になるかね?アイツは格好いい人だったよ。だいぶ前に亡くなったがね。」

黒田先生の朗らかな顔に促されて、自分の席に着く。

隣はお堅そうな雰囲気の女子で、「よろしく。」と声を掛けたら軽い会釈が返ってきた。

友達は作らなくてもいっか。どうせ、3ヶ月後位にはまた転校するんだろうし。下手に関わっても別れが辛いだけだ。


休み時間毎に女子が俺の席にやって来た。俺は適当に受け答えしていたが、隣の前田さんの机に座りだす奴もいたりして、流石に前田さんに迷惑が掛かってしまうので、女子が俺の所に来る時は教室の一番後ろに移動するようにした。



昼休み。

俺は女子の誘いを断って、自分の席でコンビニで買ってきたパンと牛乳を食っていた。隣では前田さんが一人でもそもそと弁当を食べている。

「おぃ。」

目の前には、今朝睨んでいた男がニヤニヤと笑って立っていた。

「久しぶりに会ったって言うのに、無視とはいい度胸じゃねぇの。農くん。」

それは明らかに俺を馬鹿にしているような態度だった。

「しかし、まぁ。女男がカッコ良くなったもんだな。ただこの俺に挨拶くらいはしないとな。」

「アンタ、誰だ?」

俺の言葉にその男は表情を変えた。

「…忘れてんじゃねーよっ。お前を可愛がってやった片山 秀緒だよっ。」


片山 秀緒…可愛がってやった…

「お前、青木 秀緒か?」

「あぁ。今は片山だけどな。…思い出したか?」








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