勇気の欠片




「おーい、静かにしろーっ。」


先月から俺らのクラスを受け持ってる牛山の声が教室に響く。


俺はこの若い先生が苦手だったりする。


牛山は眉毛がもの凄く薄い。頭は坊主だ。目つきも悪くて、常に不機嫌なんではないかと思う。

唯一、先生らしい所と言えば毎日黒いスーツを着てくるとこ位だ。


牛山がやって来た日は鮮烈だった。



初めて牛山を目に入れた時、皆その風貌にビビっていた。

しかし、見た目とは裏腹に牛山は、大きな身体を小さく丸めた。


「新井先生に替わって、君たちのクラスを受け持つ事になった牛山です。担任になって初めてのクラスだから分からない事だらけだけど、君たちの顔と名前を早く覚えていきたいです。一緒に楽しいクラスを作っていきましょう。」


と、人の良い顔で笑った。


この挨拶で、クラスメイト達の心を彼はしっかりと掴んだのだ。


「修学旅行が近づいてきたわけだが、1時間目は旅行の班決めをしたいと思う。1時間目が始まるまで、皆少し考えておいてくれ。」


あ、牛山と目があった。

やっぱ怖い。ヤッさんだ…。


「…じゃあ、朝のHRはこれで終わり!ちゃんと考えとけよっ」


HRが終わると牛山はあっと言う間に女子に囲まれる。



女子はあんな海坊主が好きなんだろうか…。

そう思ったのは、どうやら俺だけじゃないようだ。

周りを見ると男は皆、牛山と女子の様子を伺っていた。


「瀬戸!班一緒に組もーぜ〜」

「おー小山ぁ。茂雄と王子も…」


王子とは酒井のあだ名だ。
理由は王子っぽいから。


最近、酒井は俺らとよく行動を一緒にしていて仲良くなった。

王子は俺が想像していた感じと違って、普通の男だった。



「瀬戸、高橋君はいいのか?」


王子が俺の耳にそばたてる。

王子は以前、俺に告ってきた奇特な男であり、俺を好きになってくれた数少なき友人であり、俺と高橋の関係を知っている唯一の存在だ。


「…いーのも何も。」


高橋は小林君達と一緒だろ。


小林君達が騒いでいる所を見ると、案の定、高橋がそこにいて、こちらをソワソワと伺っていた。


「…まぁ、アイツは小林君達と一緒だろうな。見た目は強面の不良なのに、度胸ないなぁ。」


王子は少し長くなった金髪を無意識に撫でた。


「おい、お前達何話してんだよ?」

「木村君が可愛いって2人で話してたんだぁ。」

「幹隆、コイツ殴っていい?」


王子は今、木村茂雄に夢中らしい。





ふと、高橋を見ると、奴はショボくれていた。



俺だって、本当はお前と同じ班になりたいけど…こればっかりは仕方ないだろ。お前も俺と同じ考えじゃないのか?


大体、不良の癖に、高橋は気が小せぇんだよな。


そんな顔してたら、解決すんのかよ?


てか、俺達は一体何を気にしてんだ?



お互いのイメージ?ミスマッチを?



…馬鹿だな。馬鹿げている。

そう思わないか?



…そうか。お前はその沼から抜け出せないんだな。

だから、救いの手を待っているのか。

馬鹿だな…。



「おいっ、瀬戸!どこ行くんだよ!」



俺は勇気を出して、小林グループがいる所に歩き出した。


自分でも今何をしているのか、はっきりとは分からない。








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