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「…瀬戸。何もないんじゃなくて、見えてないだけだ」
「…」
「お前は確かに、根暗だし、乱暴だし、人の話聞いてないし、ボーっとしてるし、口悪いし、喧嘩っ早いし、鈍感だし、デリカシーの欠片もないし…はっきり言って性格悪いと思う。」
「…んだとっ。」
自覚はあるが、人に言われるとムカつくものがある。
「だけど、俺は瀬戸のそういうとこが好きだ。」
「…」
「大好きだよ。」
太陽みたいな笑顔だった。
なんか神聖で、触れてはいけない気がした。
「変わりもんだな、お前。」
「同感だ。」
「…ふふっ、ふははっ」
「何笑ってん…」
「あはははははっ…!!」
「瀬戸…」
俺は腹を抱えて笑い、そして泣いた。
なんか、凄く可笑しくて、愉快な気分なのに、目からは塩水がボロボロと零れてくるのだ。
世界がひっくり返った。
目に映る全ての物が鮮やかで、本来の色を見た気がした。
俺は今まで何を見てきたんだろう。
全ての物が美しく見えた。
俺の道は、俺が決めるのだ。
最初から握り潰しては、道は途絶えてしまう。
俺の前に道が見える。
自由自在で、何処にでも行ける道だ。
「…格好わりぃな、俺。」
「…格好いいよ。」
高橋は、俺の目についた涙を指ですくう。
「…お前は鈍感だ。あっさりスルーしやがって。」
「何が?」
「俺の秘密を。」
…高橋の秘密?
「…もう言わねー。」
高橋はそのままふてくされてしまった。
「…高橋。」
「何だよ」
「好きだ。」
「…は?」
「大好きだ。」
俺は今までした事が無いような笑顔を見せた。表情筋が痛い。
「…もっかい言って。」
「好きだ。」
「…もっかいだ。」
「大好きだ。」
「…もっかい。」
「高橋の事が大好きだよ。」
俺がそう言うと、高橋に両手で襟を掴まれて引き寄せられた。
そしてキスされた。
「ばっ、おまっ、ここ外っ」
「俺もだ。」
「あぁ?」
「俺もお前が好きだっ」
「…泣くなよ、不良。」
「うるせぇっ。嬉しいんだよ。」
俺はただ高橋の顔をみつめる。
「嬉しくて死にそうだ。」
「…死ぬなよ。」
自分の袖で高橋の目元をゴシゴシと拭ってやる。
「…俺、ゲイで…お前の事、一目惚れだったんだ。」
「…マジで?」
「ぅん。顔がモロ好み。あと、駄目人間ぶりもドストライク。」
「(…駄目人間。)」
俺は遂に高橋の秘密に辿り着いた。
「お前の知りたがってた秘密だ。」
「…驚いた。」
高橋は苦笑いをする。
「もう、お前に隠す必要ないからな…」
俺はたまらず高橋を抱きしめた。
「…帰ろう、高橋。」
「…ぅん。」
「…俺たちの愛の巣へ。」
「俺の巣だっ」
高橋の笑った顔は赤かった。
「ボロい巣へ…」
「殴るぞ?」
俺には何もなかった。
これからも何もないと思っていた。
だけど、いつの間にか。
俺の中には高橋がいた。
高橋は笑いながらも、なかなか涙は止まらなかった。
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