青い世界




「…でさ、あそこのシーンがまた格好いいんだよっ」


高橋の頬には俺が殴った跡がある。


「…聞いてるか?」

「…え、何つった?」


やべ、全く聞いてなかった。


こいつはさっきから何をそんなに嬉々と喋ってるんだ?


「…お前って、いつもボーっとしてて人の話聞かないよなぁ。」


高橋は呆れた顔をする。


俺はこの前の事とかあって、高橋に申し訳なく、詫びのつもりで日曜日に映画に誘った。

何気に俺から初めて高橋を誘った。

高橋の驚いた顔は今思い出しても笑える。傑作だった。


「…お前、最近優しいよなぁ。」

「はぁ?」

「だって、今日だって映画のチケット代とか出してくれたし。」


それは…やっぱ酷い事しちゃったし。当然だよな。


高橋の腫れた頬が何よりも雄弁だ。


「…でも、俺は嬉しい。」

高橋がニコニコと笑顔を向ける。


「ありがとなっ」


あぁ…、心臓が。痛い。


「瀬戸…」

「ん?」


俺たちは今、何となく田舎の町をブラブラと歩いている。


「あのな、…この前の事ならもう気にすんな。」

「…」


俺はその話になると何も言えなくなる。


「お前はきっと俺を殴ったを気にしてんだろ。」


高橋が明るく笑った。

「俺ならいいんだ。」

「…もう、いいから高橋。」


俺は高橋に無理をさせたくなかった。


「…本当だよ、瀬戸。」


高橋は急に切なげになる。


「俺…瀬戸になら、どんな酷い事でもされたいんだ。」

「高橋…」

「あ、別にMとかそういう事じゃないからなっ」


高橋は顔を少し赤くする。



俺らはいつの間にか近所の何もない公園にいた。ほんと、ベンチしかない公園だった。



「お前。どうしてそこまで俺に…」



俺は今、どんな顔をしてるんだろう。



情けない?それとも不細工?



「…瀬戸?」


「俺にそこまでの価値があんのかよ…」


痛い。キリキリする。…全身が痛い。


「俺は根暗だし、性格悪いし、乱暴するし。」

「…瀬戸。」


高橋は俺をとりあえずベンチに座らした。



「この公園みたいに…俺には何もない。」

頭が痛い。


「俺には何もないんだよ…」


目が痛い。顔が痛い。



「…お前は馬鹿だっ」

「…」

「よく見ろっ!!この公園には地面がある、草がある、花もある、蟻だっていて、それを阻む石があって、全てを包む空がある。」






「…それに隣には俺がいるじゃないか。」


高橋の笑った顔は優しかった。











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