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「いい顔してる。」
高橋君は俺を見て楽しげに笑った。
「どうして俺をここに?」
「…瀬戸と来たかったんだ。」
ちょうど始業のチャイムが鳴り始めた。
「…あ、始まった。」
「もう、フけちまおうぜ。」
そう言って、高橋君はゴロりと横になる。
「…いいのか?」
「つまらないんだろ?学校。」
俺は高橋君の横に腰掛ける。
「…俺たちは今、秘密を共有してるんだ。」
「…」
「秘密の友達だ。」
高橋君は見た目の割に、やけに幼な気に笑った。
「…秘密は無いんじゃなかったのか?」
俺は高橋君の昨日の言葉を思い出す。
「…あれは嘘だ。人には誰しも言えない秘密ってのがある。」
「高橋君にも?」
「…ある。瀬戸にだってあるだろ?」
「…いや、ない。」
高橋君が顔を俺に向ける。
「何もないのか?」
「何もない。」
「…羨ましい奴だ。」
…違う、そうじゃない。本当に何もないのだ。俺には何もない。
「だけど、お前も今日から秘密持ちだな。」
俺が黙ってると、高橋君は言葉を続けていく。
「秘密の友達はな、秘密の事をするんだ。」
「秘密の事?」
「あぁ、だから今日の事も秘密。」
そう言って、高橋君はポケットからタバコを取り出した。
おもむろに一本くわえて火をつける。
タバコを吸うと、俺の口の前にそれを持っていく。
…まただ。
俺はタバコのフィルターをじっと見つめる。
唾液で少しテカっている。
俺が中々タバコをくわえない事に痺れを切らし、高橋君はタバコを俺の唇に付けた。
俺は…いけない事を、している気がする。
分かっていても、俺は口を開いてタバコをくわえる。
タバコのフィルターに高橋君の唾液の感触がした。
いけない事を…
「…これも秘密な。」
高橋君は俺の唇辺りを指の腹で触れた。
…そうだ、秘密だ。
このほろ苦い味も、刺激も。
胸の高揚感も。居心地の悪さも。
全部、秘密にしてしまえばいい。
高橋君は俺の口からタバコを抜き取ると、それをくわえた。
…秘密にしてしまえばいい。
俺はゴロりと高橋君の隣に横になる。
「…あと、高橋君はやめてくれ。」
「何で?」
「何か、気持ち悪い。」
「…」
「…聞いてるか?」
「聞いてるよ、高橋。」
俺がそう言うと、高橋は嬉しそうに笑う。
こんなにガタイもよくて、厳つい髪型と顔をしているのに。
………女の子みたいだ。
そんな事言ったらきっと俺は殴られるだろうから秘密にしておく。
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