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「この野郎…大声出すんじゃねーよっっ!!」

「…っ」


振り向いて怒鳴り返すと、奴は微かに震えていた。


「…お前、最近何なんだ?言いてー事あんなら言えよ。」


原田は切れ長の瞳を煩く揺らした。




「…お前が、最近…部長って、うるさいからだろ…っ」

「…あぁ”っ?それだけで、俺にそんな態度とってんのか?くだらねーなっ。」


原田に詰め寄ると、原田はロッカーに背をぶつける。


「…くだらなく、なんかない。」


目にはうっすらと涙の膜が張っている。

相変わらずの泣き虫野郎だ。


「チッ…意味わかんねー。あー…やっぱ八つ当たりしてくる奴より優しい部長に教わりたいわぁ、俺。」

「…っ」

「優しいし、柔道だって強いし上手い。一緒に居て楽しいし。」


制服に着替え、脱いだ胴着をたたみ、帯で縛る。部室の鍵は俺が持ってるから、着替えているこいつを待たなければならない。


原田は俺の言葉に何とも言えない顔をしていた。


…多分、あれは傷ついた顔だ。


「………なら、これからは京山に教われっ。俺から言っとくからよ。」


原田は腕で目元を一回拭い、止まっていた手を再び動かし黙々と着替えていく。


「…おい。本気で言ってんのか?」

「…本気だよ。お前もそっちの方がいいって言ってるし。」


着替え終わったにも関わらず原田は俺に再び背を向け、振り向こうともしない。





俺は別に本気で言ったわけじゃねぇ。

原田が意味わかんねー事言ってるから、カッとなって言っただけだ。



今までずっと教えてきたくせに。

厳しい練習ばっか俺だけに遅くまでさせといてよ、自分は途中で投げるのか?


「…んだよ、それ。」

「…っ」

「…冗談じゃねぇぞ。俺は物じゃねぇっ!!」

「ちがっ」


俺の言葉にとっさに振り向いた原田の顔は切なげに歪んでいた。


俺は「こんな物っ!!」と、部室の鍵を原田に投げつける。


鍵は原田の胸に当たってポトリと落ちた。


俺はその様子を客観的かつ冷静に眺めていた。





「自分の言葉に責任持てねー奴は、俺の前から消えちまえ。お前が消えねーなら俺が消える。さよならだ、副部長さん。」


俺はいつの間にか涙を流していた原田の顔を最後に、部室を出た。



…もう、拭ってやらねーよ。



ドアはバンッ!!!と大きな音をたて軋んだ。






一人狭い部室に残された原田は暫く立ち尽くしていた。





「…ふっ…ぅっ…」



部室の床に涙が一粒、また一粒落ちた。



そして、張り詰めた糸が切れたように原田はその場で泣き崩れた。


投げつけられた鍵を拾い、ただただ握りしめて。



この時、原田の秘めたる気持ちを俺は知らかった。


 





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