親衛隊っ!
道場の畳にビタンッという重量のある音と共に巨体が揺れた。
背負い投げ10本も、受け身を取っている巨体を目の前にすると中々キツい物がある。
「…おら、進藤どうしんだっ。後半、力が全然入ってねぇぞっ」
ムクリと起き上がった巨体は我が柔道部・副部長の原田だ。
「…はぁ…はぁ…無茶言うなっ。アンタみてーな巨体をこっちは続けざまに投げてんだ…」
肩で息をするが、呼吸は一向に楽にはならない。
辛い…。女だった時はスポーツなんてまるで無縁だった。
周りからチヤホヤされて生きてきたからな。
力は確実に上がったが、スポーツなんて初めてやったに等しい。
「この位で根を上げるようじゃ、お前は栗田にも負けンぞっ。」
原田の奴…俺ばっか居残り練させやがって。
「…労いの言葉もねーのかよ。(ボソッ)」
滴り落ちる汗が鬱陶しくて腕で拭っていると、タオルを投げられた。
タオルには「原田」と刺繍が施してある。
原田は顔を背けて、部室へ向かう。
「…素直じゃねーなぁ。」
まぁ、悪い奴ではないんだが。
◆◇◆
「…何で部長は俺の練習見てくれねーんだ?」
部室で着替えながら、
しかし、ここにいるのは俺の背後で着替えている原田しかいないので、自然と原田に向けられている事になる。
「…言葉。」
「…何でなんスかねー、原田先輩。」
「知るかっ。」
「…この野郎っ」
…機嫌悪りーな、こいつ。
柔道する以外で俺と2人きりの時の原田は最初の頃と比べて言葉数が格段に少なくなった。
原因なんか知らない。
「…たくっ、言いてー事があんなら言えってんだよな。」
「…」
俺は後ろで着替えている原田を何となく振り返った。
奴は俺に背を向けて着替えていて、ちょうど上の胴着を脱いでいる最中だった。
原田の上半身を見て違和感を覚えた。
少し細くなっている。
ゴツくて無駄に暑苦しい奴だったのに。
今の姿は頼りない…いや、寂しい感じだ。
「…大体よ、知らねーって事はねぇだろ。お前、部長と友達なんだしよ。何か知ってるんじゃねーのか?」
俺は胸が締めつけられる感情が苦手だ。
だから今見た原田も、この感情も無視することにした。
それが一番楽だと知っているからだ。
「………るさいっ」
「あ?」
「知らねーよっっ!!」
原田はバンッ!!と大きくロッカーを拳で叩いた。
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