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一難去ってまた一難、ならまだいい。

一難も去ってねーのにまた一難だ。




行き場の無い思いをどーすればいいのか分からず、俺は気づけば廊下を全力疾走していた。

周りの生徒の驚いている目も気にならないし、教師の注意する声も気にならなかった。







広いだけが取り柄みてーな学園の廊下を走り続けていると、前から異質のオーラを放っている奴に出くわした。


「おいっ」


俺が無視して横を通り過ぎようとしたら、そいつに足を引っかけられて俺は3m程、頭からすっ転んで滑っていった。


俺はそこで漸くブレーキの壊れた暴走車のような状態から解き放たれた訳だが。


…その相手がいけなかった。



「(ヤベッ…)わ、悪い…だ、大丈夫か…進藤?」

「てめっ…奈良崎ぃっっ!!死にてぇえかっゴラァア”っっ!?」


不安げに俺の顔を覗き込んでいた奈良崎に殴りかかると、俺の迫力に奈良崎は尻餅をついた。


「うぁっ!!やだっ、ごめんって!!」


いつの間にか生徒が俺らの周りに群がっていて、野次馬を作っていた。



図的に言えば、俺が奈良崎に襲いかかるって感じだ。


兎が狼に襲いかかる様な…


「…チッ」


俺は舌打ちを一つして、奈良崎に向いている拳を引っ込めてその場を離れようとする。


「ちょっ、待っ、…進藤っ!!本当に悪かったっ!!お前、何かいつもと感じが違かったからっ俺、心配でっ」


奈良崎はワタワタと立ち上がり、行こうとしている俺の腕を掴んだ。


「うるせぇっ!!真っ昼間から公衆の面前で豚のように犯されたくなかったら、その手を離せっ」

「…進、藤っ」


奈良崎はゆっくりと俺の腕から手を離した。


「てめー、奈良崎っ。帰ったら覚えとけよっ。ケツ腫れるまで犯してやっからなっ!!」


俺は捨て台詞を吐くと、奈良崎は顔を真っ赤にして目に涙を浮かべていた。

周りの野次馬たちも、そんな奈良崎の様子に騒然としていた。


「おぃ、嘘だろ……コレがあの最凶の不良かよっ」

「…奈良崎、泣いてねーか?」

「俺、アイツ知ってるよ。D組の進藤 要だろ?」

「あぁ、あの奈良崎と同室の。」

「なんか、…すげぇ恐かったな。ちびりそうだったよ、俺っ」

「あぁ。目がつり上がってたぞ…っ」



周りの生徒たちは奈良崎に同情していた。

少し親近感を持たれた事を本人は知らない。





◆◇◆






俺は特に行く宛もなく、フラフラと歩きさまよっていたら屋上に辿り着いた。


この学園の屋上には初めて来たが、広い屋上は意外とガラーンとしていて何もなかった。


しかし、考え事をしたい時にはこの空間は逆に合っているのかもしれない。




屋上のド真ん中にしゃがみ込み、曇り空を見上げていたら、嫌な記憶が一気に押し寄せた。


部活の先輩は人間じゃねーし、望んでねーのに勝手に親衛隊は出来るわ、奈良崎ごときにすっ転ばされるわ…。


「泣きたい…」


しかし、涙は出ない。


「何してんだ…お前。」


俺は顔を上げてピシリと石のように固まってしまった。

今、最も会いたくねー人物が何故か俺の目の前にいる。

ある意味、奈良崎よりか会いたくねー人物だ。


「原、田…っ」

「…何だよ、その嫌そうな顔はっ。」


畜生。何で、こんな時に…っ。


「つか、呼び捨てすンなっチビっ」

「うるせーっ」

「………ハァ。」


原田は大きな溜め息を一つ吐いて、何故か俺の隣に腰掛けた。


「…何で、そんな態度取るんだよ。」

「気に食わねーんだよ。」

「…如月に聞いたんだけどよ。俺はお前の事を嫌いだからお前にだけ厳しくしてんじゃねーンだよ。」

「…はんっ、どーだかっ。別に俺は嫌われてても構わねーよ。」

「だから嫌いじゃないって言ってんだろ。お前は俺の事嫌いみてーだけどな?」

「まぁ、気に食わないな。」


別に原田はそんな事言われたって何とも思わないと思っていた。


「…嫌われるのは、辛いなぁ。」


傷ついたような顔で原田は笑った。


「お前には柔道の素質がある。」

「…」

「期待してんだよ、俺は。…お前がこの先、どう強くなっていくのかが楽しみなんだ。」


原田が初めて柔らかく笑った。


「だから今は特に大事な時期だから厳しくしている。………だけど、俺は自分の考えを押し付けていただけだったのかもな。」

原田はデカい体を丸めて、曇り空を見つめた。

よく見ると、曇り空を見つめているわけでは無く、涙が零れないよーに我慢していた。



「…泣くなよ、気持ちわりーなぁ。」

「うるせぇっ…お前のせいだっ」


原田は曇り空を見上げたまま、鼻を啜った。


「…お前には俺の気持ちなんか分かんねーよっ。俺がお前に教える事ができるのがどれだけ嬉しかったか。」




…ユメは確か言っていた。今は分からなくても、原田の気持ちが分かる時が来るって。



「…分かんねーよ。」

原田はまた涙を滲ませた。顔はもう空を向いていない。諦めたように、顔を下げると涙が零れ落ちた。


「分からねーけど…泣くなよ。」


ポロポロと涙は溢れ出している。

俺は隣との僅かな距離を詰めて、目蓋に唇を寄せ原田の涙を吸い取った。


「…先輩は泣き虫だな。」

「えっ」


原田は俺の行動にか、それとも初めて先輩と呼んだ事にか、どちらに驚いていたのかは分からない。



 





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