不運っ!




「桃屋。」

「あ、…何?要くんっ」


桃屋は俺に話し掛けられてオドオドと俺の顔色を窺った。


「この金で一っ走り俺にコーラをっ、痛”っ!!」

「コラぁあっ進藤っっ!!先輩をパシリに使うなとアレだけ言ったろがぁっ!!」


上を見上げると原田が拳を握って仁王立ちしていた。顔も仁王様のようだ…。


「栗田もこンな奴の戯言を一々聞くんじゃねぇっ!!」

「ひぃっ!!す、すんませんっ!!原田先輩っっ」


桃屋もついでに拳骨を食らっていた。アイツとことん可哀相な役回りだな…。


「ユメっ、あのゴリラ辞めさせた方がいーよ。俺らの神聖な道場から死傷者が出んぞっ」


俺は最近仲良くなった一つ上の先輩・如月 夢人の元に避難する。


「栗田をパシリに使うお前が悪い。」


ユメは俺の言葉を一刀両断して、黙々と道場の畳に雑巾を掛ける。

「だけどよ、アイツ俺にいつも厳しく当たるんだ。もう、辞めてーよ俺。」


雑巾がけを続けるユメを引き止める。


「それが先輩のやり方なんだよ。お前が頑張れば何も言われなくなるさ。」

「…」

「今は分からなくても、その内先輩の気持ちが分かってくるさ。…だから辞めるなんて言うなよ。お前が辞めたら、寂しくなるだろ。」


そう言って、ユメは俺の頭を撫でた。

ユメは外見は優男っぽいが、中身はしっかりしていて俺に凄く優しい。


「ユメっ。」


俺はユメにギュッと抱きついた。


「たく、しょうがねぇなぁ。」


そう言って、ユメは俺の背中をポンポンと優しくたたいた。


あー…まるで兄ちゃんみてーだ。すげっ、あったけぇー…。




「……おぃ、俺の上で寝るなよ。」


温かくて寝そうになった俺を引き剥がしたユメは、雑巾がけを再開した。








ユメのお陰でだいぶ元気にはなったけど、やっぱり原田は気に食わない。

何とかしねーとな…あの野蛮人に俺の華やかなスクールライフが脅かされる。




◆◇◆




何のアイデアも浮かばず数日。

「ハァ…。」

「進藤…どうした?」


教室で休み時間、机の上に突っ伏していると、純くんが俺の顔を心配そうに覗いた。


「部活にゴリラが混ざっていて…このままじゃ俺は殺される。」

「…何かよく分かんないけど、動物園に送り返したら?」

「それができたら苦労しないよ…」



俺はパーマのかかった髪を掻き乱す。


「そんな沈んでいる進藤くんに朗報〜っ!」


蘇我が俺の前の杉山の席に腰かけた。


「ンだよ、蘇我。」


「まぁ、そう荒むなよ。ゴリラの事よりお前の事だっ」

「あ?」

「遂に進藤の親衛隊が出来たんだっ!」

「えぇっ!?」


俺より先に純くんの方が驚いていた。


「………親衛隊?どーいう事だ。」

「ここの学園の親衛隊って、メンバーが50人以上でないと登録されないんだけど、進藤の場合、早くも78名の生徒が募ってるらしいんだよっ」

「…何だと?」

「もっと喜べよっ!しかもメンバーは見事に体育会系ばかりだって!」


朗らかに笑っている蘇我を俺は死んだ目で見つめる。


「進藤…元気出せよ。」

「純くんだけだ…俺の味方は。」


純くんは俺のパーマがかった頭を柔らかく撫でた。


「ウチのクラスは今ン所、親衛隊は進藤と西やんだけだなっ」

「西やんも親衛隊あんのか?」

「知らないのか?進藤より先に出来てるよ。隊員数は200人位かな。」


「200ぅっ!?」

「うぞっ。西田ってそんな人気あんのか…?」


純くんは口をあんぐりと開けている。


「お前らなぁ…。西やん程の男前なら当然だろ。しかも隊員は見事に可愛い子ちゃんばっかり!進藤とは真逆だな。」

「俺は別に、ゴツいのも可愛い子ちゃんもいらねーよっ」


気怠げに席を立つ。


「あっ、進藤っ!」

「おぃ、どうしたんだよっ」


2人の心配の色を含んだ声を背中に浴びて俺はフラフラと重い足取りで教室を出て行った。








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