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ベッド脇に置いた時計を見ると、予定よりも寝てしまっていたようだ。隣では夢子が安心しきった顔で眠っている。
「夢子、俺そろそろ帰るから」
さすがに泊まるわけにはいかないしと体を起こすと、外気が冷えていて身震いする。
彼女はまだ夢の中なのかむにゃむにゃしていた。
服どこやったかな。
薄暗がりの中で、起こさない様に脱ぎ散らかした服を回収するのはかなり難しかった。
京治と、掠れた声がしたのはそのせいかもしれない。
「帰るの?」
「うん」
「泊まってけばいいのに」
「それはマズイだろ」
「わかってるよ」
言ってみただけと夢子は笑う。
彼女の分の服も手渡すと、あっちむいててと怒られた。
「さっき散々見たのに」
「そういう問題じゃないの」
わかってないとでもいうように無言で壁を指さされるので、そっちを見とけという無言の圧力には素直に従うしかない。女ってよくわからない。
「よし、じゃあ送るね」
着替え終えた彼女は俺の手を握る。そして名残惜しげに意味もなくゆらゆらと遊んで離してくれない。
「やっぱり、寂しいね。別れ際って」
「明日学校で会えるから」
「ん。ごめん、遅くなっちゃって」
「それは構わないけど」
時間に限りがあるのが悔しいね。夢子はよく言う。早く大人になりたいなとも。
大人になれば、もっと忙しいんじゃないかと俺は思うけど、二人でもっと自由に会えるでしょと言われる。
『今日、親居ないから』
彼女が俯きながら真っ赤になって、俺の制服の裾を掴んでいたのは数時間前。
その姿に理性を保てるわけもなく、乱暴にしてしまったかもしれないと、今更ながら反省する。
大人になれば、こんな些細な事で頭を悩ませることはないのだろうか。
触れ合っても、触れ合わなくても、満足出来た試しがない。ただ、窮屈な彼女のベッドで密着出来ていた間と、俺の腕の中にいる夢子の香りに包まれることが出来たことは幸せな時間だった。このまま時間が止まらないかと、柄にもなくそんなことを願ったくらいに。
20141214