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椅子に座って足をぷらぷらさせる。二口はさっきから作業に没頭していて、こちらを見やしない。眼鏡を奪われたので、ぼやける視界にぼやける二口。
「出来た!ほら」
差し出されたのは、フレームが曲がって同じ場所に留まれなくなっていた私の眼鏡。
いい加減うざいから直させろと、半ば強引に拉致された眼鏡はフレームが左右対称になって返ってきた。
掛け心地もサイコーだ。
「ありがと」
「おう。つーか、眼鏡とっても目は3じゃないんだな」
そんなマンガみたいな事あるわけない。バカじゃないのと言うと、眼鏡を取ったら3になると思うだろ普通と真顔で言われたのは驚いた。
「花田ちょっと眼鏡貸して」
「今返して貰った所なのに」
眼鏡を外した状態でいる事は苦手だ。自分の弱い所をさらけ出した気分になる。渋っていると、いいからとまたしても勝手に人の眼鏡を奪っていく。
「俺しかいないから平気だって」
人の気も知らないでとは思うものの、二口にそう言われると、訳もなく納得出来るのだから不思議だ。
「お前こんっな度の強い奴よくかけれんな。目痛え」
「そんな事言ったって、私にはそれが普通なの」
へえ、と興味無さそうに適当に相槌を寄越してから、なぁと二口が私を呼ぶ。
「眼鏡、似合ってる?」
「何にも見えない」
裸眼の状態ではぼんやりとした輪郭がわかるだけで、顔のパーツすら区別がつかない。
「こん位なら見える?」
懲りずに少しだけ距離を縮めた二口は、さっきとほとんど変わらずぼやけたまま。
「だから眼鏡無しじゃ見えないって」
「これならさすがに見えるだろ」
面倒くせえなと言った二口の顔が、およそ15cm先に
見えた。というか、見える見えないの問題じゃない。
こんな至近距離だと、顔を上げる事の方が難しい。
二口から目をそらしたいのにそらせないのは、ガッチリと大きな手で顔を挟まれているから。
「そういえばお前さ、この前俺が好きって言ったときの返事くれてないよな」
このタイミングで余計な事を思い出しやがって。
相変わらずぼやける視界の中で、私の眼鏡を掛けた二口と目が合った。
どうなんだって聞いてくる声がすごく優しいから、素直に私も好きだよって言えるかもしれない。
まぁ、眼鏡を直してくれたお礼くらいにはなりそうだ。
20141211