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窓からサラリとした気持ちの良い風が入る。放課後の図書室で、ゆらゆらと揺れるカーテンを眺めて、早くバレーがしたいなと思った。
目の前には今時誰も掛けていない様な、銀縁フレームの眼鏡をしきりに押し上げる花田がいて、ノートの上にすらすらとペンを走らせている。こいつ別に勉強なんてしなくても大丈夫なんじゃないか。

「二口、勉強しないなら帰れば?」

「気ぃむいたらする」

「気が散るんだけど」

「別に邪魔してないだろ」

集中してないからだろと言えば、下から足が伸びてきて脛を蹴られた。めちゃくちゃ痛い。
痛さに顔を歪めながら彼女を見ると、肩をくすめて小さく溜息を吐いたところだった。

「そんなに邪魔かよ」

「邪魔ってわけじゃないけど、せっかく部活が無いなら家でゆっくりすればいいのに」

専攻の違う俺たちが一緒に過ごせる時間は少ない。もちろんすれ違えば話せるし、会いに行こうと思えばいつでも行ける距離ではあるが。
ただ、こうやって二人きりで放課後を過ごせると言うのは貴重なのだ。

ずれる眼鏡を何度も押し上げては、サラサラとペンを走らせる彼女の小さな手は相変わらず忙しそうだ。
少し曲がったフレームは、眼鏡を掛けたまま寝て、起きたら背中で踏みつけていたせいだと聞いたのは一か月は前では無かったか。

「ずれるのうざいだろ。眼鏡直してやろうか」

「いい。困ってないから」

「コンタクトにしてみれば?」

「丸裸で歩くみたいで恥ずかしいから嫌」

ここは工業高校で、直そうと思えばいつでも直せるものを困っていないからという理由で一蹴する上に、そんな曲がったフレームで恥ずかしくないのもよっぽどだと思う。
俺の一緒に居たいが故の作戦をどうしてくれる。

風でなびく髪の毛は柔らかそうで、触れてみたい衝動に駆られる。
自然と目で追う様になったのはいつ頃からだったかもう覚えてはいない。
こいつ、いかにも鈍そうだもんな。俺の事なんか気にする様子も無い彼女を、なんとか振り向かせたくなった。

「俺、お前の事好きだから」

ノートをひた走っていたペンがサラ、と途中で止まる。
花田は眼鏡からはみ出そうな程大きな目を瞬かせて、それから首まで赤く染め上げた。

「い、い今、な、なんて?」

気が散るから帰れと言ったくせに、邪魔では無いと言うのは、俺と同じ気持ちだからだろうと都合良く解釈をしてみる。
ようやく俺を見てくれた花田の顔はまだ困惑していて、それが思っていた以上に可愛かった。




20141113
続かない
mae ato
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