45/79

首筋が色っぽい。こういうのって女が思われる事だと思ってたけど、そうとも限らないみたい。だって現に赤葦くんの首筋からは何かが溢れ出ている。
首ばかり見ているとピッと彼と目が合ってしまった。

「どうかした?」

「ううん、別に」

言える訳ない。赤葦くんの首がキレイ過ぎてドキドキしてましたなんて。私は彼に勉強を教えて頂いてる身なのに、集中すらしてないとか。バカな上に変態なんて思われたら生きていけない。でもそんな色気を振りまかれたら集中なんか出来やしないけど。
ちらりと盗み見ると、興味無さそうに頬杖をついてこちらを見つめている。

「な、なに?」

「なに考えてるのかなと思って」

ここであなたの事ですと正直に言えたら楽なのだろうか。あなたの事というか、あなたの首筋の事ですなんてどちらにせよ正直になんか言えるわけもないけど。

「ここの、問3がわからなくて」

咄嗟に誤魔化す為に問題を指さす私の手に彼の手が触れた。どれ、と覗き込んでくる顔もさっきより全然近くて、心臓の音が大きくて赤葦くんに聞こえてしまったらどうしよう。
露骨に手を離すのも失礼な気がして、ゆっくりと手を引くとなんで?と彼に聞かれた。

「あ、ごめん私バカで呆れちゃったよね」

「問題の事じゃなくて、なんで手、離すの?」

どちらかと言うと表情の乏しい赤葦くん。そんな彼がする珍しく力のこもった視線は迫力があって焦ってしまう。何か言わなきゃ、何か言わなきゃ、と焦るばかりの私の手にふわっと重ねられたのは、さっき触れたばかりの赤葦くんの一回り大きな手。

「あ、あか、あしくん」

「なに?」

「…顔が近い」

「近づけてるからね」

なんでも無いみたいに言わないでよ。こっちは心臓が破裂しそうなのに。からかわれてたら悲しいなとは思うけど、でも少しだけ自惚れたい。表情が乏しいって言ったけど、あれは少しだけ嘘。
本当はこうして私といる時にはたまに笑ってくれるし、ふって頬を緩めてくれる。重ねられた手はどけてくれる気配はなく、むしろしっかりと包み込まれてしまった。左手の自由は利かないし、近づけられた顔はもう少しでおでことおでこがくっついてしまいそう。
焦って右手で髪を撫でつけると、「これ、花田さんの癖だよね。」彼は同じように私とは反対の手で髪を撫でつける仕草をする。

「部活の先輩が言ってたんだけどさ、女って好きな相手とか気になる相手の前で髪の毛をつい触っちゃうらしいよ」

どういう意味かなんて聞かなくたってわかる。思わず振り払ってしまった手は、すぐ赤葦くんに捕まえられた。

「前から言おうとは思ってたけど、どうでもいい子に貴重なオフ使うほど俺もお人好しじゃないから」

彼の首から出ているのがフェロモンなんじゃないかと疑ったのはこの瞬間。きっとこれで私はずっと誘惑されていたんだろう。



20141102
mae ato
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -