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夢子から岩ちゃんを意識し過ぎてうまく話せなくなってしまったと告白されてから数日。確かに以前よりギクシャクして見えはするものの、岩ちゃん自身はそんなに気にしている風でもなく、夢子が一人で空まわってるだけにように見えた。それを聞いてからと言うもの俺の機嫌はすこぶる悪い。

「寝込みを襲われて岩ちゃんに男を感じだすとかお前何なの?変態?ドM?」

「寝込みは襲われていないし、変態でもMでもありません!」

必死に否定する姿も普段なら可愛いと思うけれど、今はイライラする材料でしかない。

「手握られた位で恋するとか免疫なさすぎでしょ。それに手なら徹ちゃんだって毎日握ってるし、岩ちゃんでそれなら今頃俺の子供妊娠してんじゃないの。つーか岩ちゃんもホント、呆れる位ムッツリだねぇ」

吐き捨てる様な言い方に彼女はなんて言い方するのと眉間に皺を寄せるけれど、口から出る言葉は岩ちゃんの庇うものばかり。

「あれに意味なんて無いんだよ。多分冷えてたし、温めようとしてくれただけだと思うっていうか、起きてすぐ岩ちゃんがいたからびっくりしたっていうか。だから私が勝手に気まずいだけで岩ちゃんは悪くないっていうか」

「何それ。じゃあお前の寝起きに俺がいたら俺の事好きになるわけ?安いねお前も」

「…なんで徹ちゃんが怒ってるの」

何で怒ってるのと言われて、自分でもわからないからムシャクシャしているというのに答えられるはずがない。この話を聞いてからモヤモヤムカムカが治まらなくて、俺の居ない所で話が進んでいるのもイライラするし、夢子は岩ちゃんを好きになった訳ではない、恥ずかしくてうまく話せないだけだと言うけれど顔が完全に恋する乙女状態だ。これが恋じゃないなら何なんだと逆に聞きたい。それでも俺を見て少なくとも怖いと思わせてしまった事は反省しなければ、と彼女の頭に手を置いた。

「夢子はどうしたいの」

どうやら彼女は気まずくなってしまった事だけ先行していてどうしたいか考えていなかった様だ。うーん、とその小さな頭を捻る。

「どうしたい…。うーん。また岩ちゃんと前みたいに自然と話が出来たらなって思ってる、けど」

俺の表情を伺う様に答えた夢子を見て、ため息をつきたくなる気持ちを必死に抑えた。だから心の中だけで言わせて欲しい。ウブか!俺はへぇとかふーんと表面上は相槌を打ったけど、ウブか!と思わずには居られなかった。夢子は恋じゃないとか言うけど、これしきの単純な事で意識しだして元の状態に戻るって何?戻れるなら最初から俺に相談なんてしてなくない?まあでもこんな単純な事で気になったり好きになったりするんだよなって事を俺は知ってるけど、やっぱり面白くないから教えてやったりはしない。

更に数日後。ほれとドリンクを渡してくれた岩ちゃんをじっと見つめていると、なんだよと凄い顔で睨まれた。

「夢子にさ、好きな奴出来たら岩ちゃんどうすんだっけ」

「は?そんなもん全力でぶっ潰すに決まってんだろ」

「だよねー」

予想通りの言葉と反応が返ってきた。そうだよね。最初からそうやって言ってたよね。あの子が青城に入学して来てから、二人そろって変な使命感持ったみたいに好きな奴が出来たら報告しろ彼氏は作るななんてさ。俺が認められる奴じゃないとあいつはやらん!って岩ちゃんなんて昭和のお父ちゃんみたいでさ。夢子が俺に相談してきた事って、じゃあ一応好きな人が出来ましたって報告って事になるのかな、と今になって思う。チラリともう一度岩ちゃんを見ると怪訝な顔をしていて、何も知らないんだなと改めて思うとまたムシャクシャしてきた。

「じゃあさ、俺が夢子好きになったって言ったらどうする?」

「…そうなのか?」

「例えばの話だよ」

「…遊びならブットバスけど、本気なら、いんじゃねえの」

言い方はぶっきらぼうだけど、それは俺の事は信用してくれてるって事でいいのかなと友人としては非常に嬉しい。俺は無言の岩ちゃんにも聞こえる様にじゃあ本気になっちゃおうかな、と呟いた。ハッと息を飲む音が聞こえたけど遅いよ岩ちゃん。だって俺夢子の事を渡したくないと思ってる。





20141019



mae ato
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