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 酒酔い天使にご注意です・後編【ユリフレ・甘】



取ってあった宿の一室のベッドにフレンを横たえる。目の前で恋人が、無防備にもすやすやと寝息を立てていた。起きないと食うぞ、とあながち冗談とは言い切れない思いを抱く。
このまま黙ってじっとしているのも辛いと、ユーリは気を紛らわせる様にフレンの頬をつついた。ぷにぷにと弾力を楽しみながら、柔らかい頬の感触を味わう。

「ん、ぅ……ユー、リ?」

「起こしちまったか? 酔っ払い」

すると、今まで頑なに閉じられていた瞼が長い睫毛を揺らして持ち上がる。ぼんやりとした空色の瞳が、自分だけを捉えていることにユーリは嬉しくなった。それをおくびにも出さず、にやにやしながら更に頬をつつく。
嫌々と言う風に首が振られ、皺一つなかった眉間に形の良い眉が寄る。ぷくりと頬を膨らませたフレンが、ユーリの指を掴む。いつもより子供っぽい表情が、妙にそそられる。

「どうしたよ、フレン?」

「これやだ。……態と嫌なことするユーリ、嫌い」

「ふぅん? オレのこと嫌いなのか?」

フレンの言葉が本心ではないことを知っているので、ユーリは依然不敵な笑みを浮かべながら問う。それがお気に召さなかったのか、フレンはふいと顔を逸らして不貞寝を始めようとした。

「拗ねるなって、フレン」

可愛らしい姿に緩む頬を抑えもせず、ユーリはフレンの上に圧し掛かった。重いだの何だの言っていた口は、すぐに大人しくなった。もぞもぞと身体の向きを変え、真正面から抱き着いてきた。
胸元に顔を埋めるフレンに、擽ったいと思いながらもユーリは彼の身体を抱き締め返した。先程一悶着あったが、何はともあれ貴重な休暇を彼と過ごせているのだ。今この時を幸せに感じない訳がない。

「ユーリに会えて、良かった」

「ん? 何だよ、いきなり」

「今日の会合が終わったら、暫く休みなんだぁ。君と過ごしたいって思っていたから、会えて嬉しかった」

至近距離でふんわりと微笑んだフレンに、ユーリは不覚にも赤面してしまった。これは仕方ないと、他の誰ともつかない人に言い訳する。
酒に酔ったフレンは、良い意味でも悪い意味でも素直になるからだ。いつも以上にころころ変わる表情に、思ったことをすぐに言う口。普段の彼を知っている人が見れば、驚くこと間違いなしだろう。
しかし、こんなフレンを他の人に見せるつもりはない、とユーリは思っていた。それは先程同様、苦楽を共にしてきた仲間であってもあまり良い気持ちを抱かない。
結局の所、フレンに酒を飲んでほしくないのは自分の為だったりするのだ。彼の可愛らしい一面を独り占めしたいという、独占欲が成すもの。

「……じゃあ、その間はずっと一緒に居ようぜ? 飽きたって言っても、離すつもりはねぇから」

「ふふ、望む所だよ」

満面の笑みで頷くフレンの金糸を、ユーリは優しく撫でた。明日から時間はあるのだから、今はゆっくり休めと。重たくなった瞼に逆らうことなく、夢の世界へと旅立って行った彼に、お休みと一言囁いた。
無防備な寝顔を見てユーリは改めて思った。酒の席にはなるべく同行し、フレンにはあまり酒を飲むなと言おうと。そうしなければ、何時この愛しい彼が襲われてしまうかわからないからだ。その姿はまさに天使の様で小悪魔で、ユーリは困ったと溜息をつくしかなかった。



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