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 他人の懐潤えど、・前編【ユリフレ・女装ネタ】



「何でオレ達が、こんなことしなくちゃいけねぇんだ……」

本日、ギルド凛々の明星はダングレストで依頼をこなしていた。街の中の人通りの中には、レイヴンとカロルが同じ仕事をしているのが垣間見える。ラピードは声の主である相棒の足元で、諦めろと言う風に溜息をついた。
声の主ユーリは、街の中を歩きながらがっくりと肩を落としていた。それと同時に、漆黒の髪から伸びている黒い耳がだらりと垂れ落ちた。忌々しそうに己の頭の上にあるそれを摘まみ、彼は再度嘆息をついた。
ユーリが渋顔でやっているのは、うさギルドから頼まれた歴とした依頼だ。ギルドをより良いものにする為、同志達を更に募りたいという内容だ。それには何ら異論はないのだが、憂鬱になっている理由はこの耳だった。
自分達がうさギルドだとわかる様に、と首領から付けてくれという要求がきたのだ。一番に不服そうな顔をしたのは、ユーリであった。だが、衣装に着替えている女子メンバーよりは、幾分かましだろうというレイヴンの言葉に諭された。
渋々やってはいるが、道行く人達の奇異の視線が痛い。同志達は若干興奮気味に近寄ってくるし、子供は可愛いと言うかくすくすと笑う。ユーリの限界はとうに超えていた。

「青年ー? そっち、人はけてるー?」

「はけてるはけてないは、この際どうでも良い。何でおっさんは、そんなけろっとした顔で仕事してるんだよ!」

お気楽にやって来たレイヴンの頭にも、また兎の耳が付いていた。カロルみたいに羞恥心をちっとも見せず、仕事を全うする彼を恨めしげに睨む。その視線を受けて、彼は苦笑しながら頬を掻いた。

「何でって言われてもねぇ……。ほら、こういうのは慣れちゃったもん勝ちよ!」

「……もう良い、おっさんに聞いたオレが馬鹿だった」

何事かを思案していたレイヴンは、答えが出なかったのかへらへらと笑い出した。無駄の労力を使った、とユーリは項垂れる。
仕事は仕事できっちりやっているが、耳の所為でどうにも気が進まない。それに加えて、この場に居る筈の愛しの恋人が居ないことも相俟っている。

「ちょっとレイヴン、ちゃんと仕事してよね!」

「あー、ごめんね。フレンちゃんがどこ行ったか、青年に聞こうと思って」

「あ、それ僕も思ってたんだ。ねぇ、フレンはどこに行ったの?」

「フレンなら、ここに居る騎士に近況を聞きに行ってから来るってよ」

精が出るねぇというレイヴンの言葉に、カロルが頷く。相変わらず仕事馬鹿を地で行っているフレンに、ユーリは嘆息をついた。騎士団のことが気にかかるのはわかるが、今は気を利かせなくても良いと思う。
うさギルドの売り込みにあたって、絶対条件は兎耳を付けることだ。フレンの照れた表情と、兎耳を見られたらこの仕事にもっとやる気が出るのに。そう思いながら、ユーリは依然不服そうな顔を崩しはしなかった。
腕を組んで兎耳を付けて佇んでいるユーリに、いつもの不遜な雰囲気はない。やれやれと言う風に、カロルとレイヴンは肩を竦めて笑った。この何時にもなく、やる気のない態度は何からきているのか。それが簡単に想像出来るからだ。

「済みません、お待たせしました!」

そろそろ仕事に戻るかという時、遠からず近からずの所で少女の声が飛び込んできた。ユーリ達の周りを歩いていた人達が、僅かにざわつき始める。聞き慣れた声の主、エステルはそれには気付かず元気良く手を振った。
軽く手を振り返し、エステルを含めてその後ろに居る女子メンバーの格好を見やる。うさギルドの首領から聞いていた通り、三人共が違う格好をしていた。
ジュディス以外の二人は、フリルが沢山付いた短めのワンピースに、頭にはカチューシャが付いている。ジュディスはと言うと、黒い背広の様な服を着て、短いスカートからすらりと伸びた長い脚を惜し気もなく出していた。シャツの前も開いているので、お色気担当と言った所か。

「いや、大丈夫だ。にしても、随分時間かかったな」

「女の身支度には時間がかかるのよ、わかっているでしょ?」

「じゅ、ジュディスちゃん……! その格好でその台詞は、反則よ……!」

妖艶な雰囲気をより一層濃くし、微笑を携えながら喋るジュディス。後ろで悶えるレイヴンを、冷ややかな目で一瞥してからユーリは彼女達に視線を戻す。そこで、女子メンバーの頭数が足りないことに気が付いた。
こういう楽しいことには、エステルと同じくらいはしゃぐパティの姿が見当たらない。カロルもそのことに気付いたのか、首を傾げていた。

「あれ? パティはどこに居るの?」

「……パティなら、もう少し後ろの方よ。もう来るんじゃないかしら?」

「そうですね。ふふ、楽しみです」

「楽しみ? パティが遅れて来ることと、何の関係があるんだ?」

普段着慣れない格好をしている上に、沢山の視線を浴びているリタは恥ずかしいのか。それとも、機嫌がすこぶる悪いのかぶっきらぼうな返事をしてきた。彼女とは正反対に、周りに花が飛んでいるのが見えそうなくらいに、上機嫌なエステルが笑いを零した。
リタの反応はいつものこととして、現在のエステルの状態は頂けなかった。一緒に旅をしてきて、彼女に対してもある程度の勘が働く様になった。それがユーリにこう伝えているのだ、嫌な予感しかしないと。
頬を引き攣らせたユーリに、不敵に微笑むジュディスに変わらずのエステルとリタ。四人の反応を見て、レイヴンが何のことか問おうとした瞬間、一行の周りのざわつきが更に大きくなった。中には黄色い声を上げた者も居る。

「ほら、早く来るのじゃ!」

「で、でも……!」

「皆をこれ以上待たせるつもりかの? 心配しなくても大丈夫じゃ、似合っておる!」

一体何が、と人垣を覗き込む前に会話が聞こえてきた。その主は楽しそうな声で話すパティと、聞き間違える筈のない戸惑うテノールの柔らかい声。



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