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片恋スイッチ
ひらひら
ひらひら
あなたはまるで蝶のよう…………
片恋スイッチ
突如、自分の視界がクリアなものから歪んだものへと姿を変えた。
「…何してるんですか?」
璃宮、と半ば呆れつつ問掛ければ…彼、同じ隊の上司こと上條璃宮は、さも面白くなさそうに軽く眉根を寄せた。
「…クラクラする、よく見えないしコレ」
はい。と事も無げに返される自分の眼鏡を受けとり、軽く溜め息を吐いて掛け直す。
「当たり前でしょ?度が入ってるんですから」
「知ってる」
相変わらず突拍子もない行動を起こす上條に、奥で書類作成に勤んでいた香我美の忍び笑いが聞こえてきた。
それに軽く睨みをきかせて、今度は漆黒の長髪をくるくると指で巻きながら遊びだした上條を見上げる。
「式部隊長程じゃないけど…綺麗だね」
上條が事も無げに言い放つ。
…それは挑発ですよね?
「触ったことあるんですか」
「うん」
「そうですか」
「興味ある?」
「いえ、全然」
無邪気な上條に軽い苛立ちが募る。と同時に、まるで悪戯を思い付いた子供のように笑む上條を可愛いとも思ってしまう。…どうやら自分は相当重症らしい。
「怒ったの?」
「別に」
まだ髪で遊びながら、上條は極上の微笑みをもらす。
…まるで強がってるのを見透かしたような…自分の気持ちなど、とっくの昔にわかっているんだと言われているような笑み。
「…まぁ、でも……興味が無いっていうのは嘘かな」
髪で遊んでいた手を掴み引き寄せる。
奥の方から軽い口笛が聞こえたが気にしない。
「因みにこれを式部隊長とは?」
「…………ないね」
「それはよかった」
気は済んだとばかりに椅子に掛直す黒瀬を横目に、やや無表情になった上條がチロリと唇を舐める。
紅く熟れた果実の様な濡れた唇に思わず魅入っていると、それが形良く笑みをつくる。
「…式部隊長とは、だけど」
「…な!?」
「さて、瑞城遊びも飽きたし…仕事しようかな」
「っ隊長!!」
あっさり離れて行く上條に手を延ばすが、さらりとかわされる。
艶やかな微笑はそのままに…
「報告書提出してくる」
また後でね、瑞城。
パタン
「…あれを手懐けるのは難しいんじゃないか?」
「五月蝿い」
先ほどとは比べものにならないくらい睨みつけると、香我美の忍び笑いが大きくなった。
それに脱力して、上條が消えた扉を恨めしそうに見遣る。
わかってるさ。
だって彼はいつでも自由気ままに、花々の間を飛び回る。
ひらひら
ひらひら
あなたはまるで蝶のよう…
…気まぐれにでも遊んでくれるなら、立ち寄る花の一つでも構わない。
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