世界は案外難しい | ナノ
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07  



私は口を開いた

「(せんちょう、そんなかなしいかおしないでください、あなたにそんなかおはにあいません)」

伝わったのか、船長は目を見開いている

「(せんちょう、わたしはふねをおります)」

「…は?」

船長が声を発したのと同時に男の声が響く

「早く金出せって言ってんだよぉお!」

ああ、これはあと数分いや、数十秒後にキレるな
呑気な事を考えている私とは裏腹に、ペンギンやシャチ、ベポは船長の名を呼ぶが、船長は未だにこちらに目を見開いたまま固まっている

私は船長からユリちゃんへと目線を移した
ユリちゃんは船長に庇われるように後ろへその身を縮めていた
私はじっとその目を見つめてふっ、と笑った

「(せんちょうを、)」

…あの人を、支えてあげて
私じゃないから、私は無理だから
こんな臆病者には行動なんかできないから
この世界の物語は貴方のものなのだろう
私が居ても、なんの支障もない世界なのだろう
でも私は、気がついてしまった恋心を実らせてはいけないと思ったから、全部、自己満足であるのは分かっているから

だから、

「(おねがい)」

全部、全部貴方に託すことを許して
逃げる私を、許して
貴方はきっと、いい人だから

ユリちゃんはその大きい瞳をさらに大きく広げる
瞳からは既に涙が零れていた

私は素早く腰にある刀を抜きとり、声の届く限り叫ぶ

「二度目の人生に、一片の悔いなし!!」

素早くその刀を心臓に、突き立てた

「「「ナマエっ!!」」」

三人の声が耳に届く
すべてがスローモーションのようだった
私の体は、後ろに居た男と共にどこまでも深い深い、海の底に落ちていった

最後に見たのは、どこまでも青すぎる綺麗な空だった



「…世界は案外、難しいや」




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