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カレーライス



少し前の夜、子ども用の小さくてショボいビニールプールを屋上に置き、ナイトプールと称して女子会を開こうとした。もしかしたら女子会という言葉はもう古いのかもしれないが、それでも同性だけで集まり話をするというのは普段と違う楽しさがある。プラス「夜に入るプールとか新鮮じゃん!」と、自分の思いつきに感動した私は驚きのスピードで準備をし、その夜を心待ちにしていたのだ。
しかし、いざ会場となる玉狛支部の屋上に行けば、待っていたのは招待した女の子2人ではなく、自称エリートの無職の男。
まあ、迅と過ごすのもそんなに悪くはなかったけども。新しい魅力に気づいたけども。懐かしい記憶が蘇ったけども。でも「待ってる」って言ってたのに別人がいるとか納得いかない。

真相を確かめるべく、小南や栞ちゃんに事情聴取…といきたかったのだが、そういう時に限って任務代わってくれだのコッチのヘルプに来てくれだなんだかんだで、ここ数日とても忙しかった。自由な時間がないというレベルではなく睡眠時間を削らないといけないレベルで忙しかった。ああ、睡眠が足りない。
それでも時間を作り、やっと玉狛に行けることになった。正直今すぐ布団にダイブしたいところだけど、今日を逃せばいつ行けるか分からぬ。突撃じゃーい!とばかりに連絡もなしに押しかけてみれば、栞ちゃんがいた。というかぱっと見、栞ちゃんしかいなかった。


「栞ちゃん!」
「おわぁ! びっくりしたー! 来てたの全然気づかなかった。いきなりどうしたの?」
「なんでナイトプール来なかったの!?」
「……? 夜遅いから中止だって話じゃなかった?」
「そんなこと言ってないけど…」
「あれほんと? 小南がそう言ってたんだけどな…」
「小南がぁ?」
「う、うん」


私の圧が強かったのか、栞ちゃんは若干後ずさった。
しかし様子を見る限りどうやら本当に栞ちゃんは中止だと思っていたらしい。「もしかして来たの? いなくてごめんね」と謝ってくれた。中止だと伝えられたのであれば、そりゃいなくて当然だ。

しかし何故小南は「待ってる」なんて言ったのだろう。
「騙したわね〜〜!!」としょっちゅうとりまるくんに言ってる割に、自分も嘘つくのか。それとも誤解なのか。小南の性格的に嘘をつくとは思えないし、ついたとしてもすぐに分かるから誤解だと思うんだけど……とにかくこれは小南に直接話を聞くしかなさそうだ。


「なまえちゃんは夕ご飯食べた?」
「ううん、食べてないよ」
「食べてく?」
「いいの?」
「いいよー今日はみんな出払っちゃってるから」


聞けば今日は陽太郎と栞ちゃんしか玉狛にいないらしい。
昨日の夕食当番だった小南のカレーが大量に残っているため、出来れば食べてほしいとのことだった。作り置きは便利だけど、食べる人が少なければずーっと毎日カレー暮らしということになりかねないからである。ここに住んでいて夜出かけることのない陽太郎はとくに。幼児が毎日カレーというのはいかがなものか。「そういうことなら…」とアポなしだったけど、お腹が空いてきたし、帰って作るのもめんどうだし、お言葉に甘えることにした。

「温めるだけだから手伝いはいらないよ」「用意しとくから陽太郎呼んできてー」ということで、なにもやることのなかった私は、陽太郎と雷神丸という幼児とわんころ(どう見ても犬じゃなくてカピバラ)に声をかけにいった。


「小南、昨日はいたんだね…」
「いたぞ! なまえは小南に会いたかったのか?」
「…うん、そうだね。会いたかったよ」
「小南は夕ご飯を食べて帰ったんだ! なまえも食べにくれば会えたのにな!」


小さな子の純粋な目が眩しい。
やましいことがあるわけじゃないけど『会いたい』というよりは『事情を聞きたい、問い詰めたい』という気持ちなため、そのキラキラした視線に耐えられなかった。
陽太郎から微妙に目を逸らしながらリビングに戻ってくれば、ちょうど栞ちゃんがカレーを盛りつけ終わったところだったので運ぶのを手伝うが、3人という少人数のためすぐに終わった。


「「「いっただきまーす」」」


久しぶり食べた小南のカレーは、ムカつくくらいとても美味しかった。ちきしょー。

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