◎いちねんせい◎
ローブ、杖、教科書、鍋____
持ち物リストを確認してからトランクのふたを閉める。美味しそうなご飯の匂いがしてきたからそろそろご飯になるだろう。降りようかと思っていると「夕飯だよ」と妹のジニーが呼びにきたので部屋の電気を消して階段を降りる。
「ロン!ちゃんと荷造りしたの?忘れ物はない?」
「ちゃんとしたから大丈夫」
「そうやって」「いつも」「忘れるのは」「「誰かな?」」
私より一足早くダイニングに来ていた双子の弟のロンが双子に絡まれている。
「お前たち!いい加減にしなさい!」
ママの怒鳴り声が飛ぶが、それを気にしないどころか、むしろ変な理屈でママをからかってもっと怒らせるのがこの双子である。
「そんなに怒るとシワが増えるぞ、ママ」
「そうだよママ。僕たちはただ真実を述べているだけさ!なぁロン」
そう言ってフレッドがロンの肩を組もうとする。
「うるさいなぁ。忘れ物なんてしてないよ」
「おやおや、ロニー坊や。嘘はいけないな嘘は」
「フレッド!ジョージ!」
ロンがフレッドの手を払い、言い返したところでママが再び怒鳴る。そしてやっと降りてきた私に気づき、ルイと呼んだ。
「貴女も準備は大丈夫?」
「大丈夫よ、ママ。ちゃんと確認したわ」
「そう。ならこれを運んでちょうだい。少し熱いわよ、気をつけてちょうだい」
そう言って焼いたばかりと思われるグラタンを差し出してきた。ママは手袋してるから分からないかもしれないけど、これ絶対少しどころか、めちゃくちゃ熱いやつでしょ…
「なんでルイには言わないんだよ」
「なんでって、そりゃルイは忘れ物をしたことがないからな昔から」
仕方なしに袖を伸ばして手を覆い、いくつもあるグラタンをダイニングに運ぶ。私の名前が出ているけど巻き込まれたくないので無視だ。それより喋ってないで運んでほしい。家族が多いから人数に作られたグラタンの数も多いわけで。セッティングするのに時間がかかる。何も手伝おうとしない3人を横目で見ながら、何度もダイニングとキッチンを往復する。
「しっかり者だからさ、ルイは」
「ロニー坊やはうっかり者だけどな」
あながち間違えていないので、反論出来ないロンが手を出そうとする。
「こらこら、落ち着けよ。夕食になるぞ」
ロンの振りかざした手を止め、注意したのはママではなく、ちょうど今降りてきたらしい一番上の兄のビルだ。何故か双子はママが怒るよりもビル兄に注意された方が大人しくなる。多分ママには怒られ慣れちゃったからだと思う。
チャーリーもパーシーもやってきて、上の兄3人が料理やお皿を運ぶのを手伝ってくれたのでやっと料理が全てテーブルに移動することが出来た。
「明日から学校か」
「いいなー…私も行きたい!」
「ジニーも来年になれば行けるようになるわ」
「ルイ!私は今すぐ行きたいの!」
こうなったジニーは何を言っても無駄だと経験上分かっているから、適当に相槌を打って話を終わらした。そうしてまたやっている双子のロン弄りを聞き流しながら、黙々とご飯を食べる。こうやって家族皆でご飯を食べることも当分ないのか。ビル兄はエジプトへ、チャーリーもルーマニアに行ってしまう。家族皆バラバラだ。そう思うと少し寂しいかもしれない。
「ビル兄とチャーリーにも暫く会えないのね」
「寂しいか?」
「うん、寂しい」
私が即答したことか、珍しく素直になったことにか、どちらか分からないけど目を開いて驚いた様子のビル兄とチャーリー。ママまで「あら」なんて言ってこっちを見てきた。あんまり可愛い子供ではない自覚はあるけど、そんなあからさまにしなくても。
夕食を食べ終わったあとは順番にシャワーを浴びる。
荷物の最終確認をしたり同じ部屋のジニーと眠くなるまで話をした。
ビル兄とチャーリーのところにおやすみを言いに行くと、ギュッと2人とも抱きしめてくれた。恥ずかしいけどなんだか落ち着くと同時に、たまには甘えるのもいいかもしれないと思った。
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