「始まったようね。貴女のお相手はここまでよ」 お濃はそれまで戦っていたかすがに背を向けた。 「待て!」 濃姫は地面に向けて砲弾を撃つ。 追っていたかすがの足下で爆発が起こり、かすがは後に飛んだが避けきれず地に倒れかけた。 そこに、さっと謙信が現れ支える。 「だいじょうぶですか?」 「け、謙信様!!」 倒れかけたかすがを抱きとめた謙信が微笑む。 「よくここまで もちこたえましたね」 謙信はかすがを離すと高速な動きで、濃姫の前に回り込んだ。 かすがも爆発で打身をおったが、謙信の登場に自分を鼓舞し濃姫に追いつく。 「どきなさい!」 「わたくしのうつくしきつるぎに きずをおわせた まおうのつまよ」 いつも穏やかに微笑みが灯っている謙信のその唇が、真一文字に結ばれている。 「そのつみは いくせんの し より おもい」 謙信は眼にも留まらぬ素早さの中、長刀で真空の波動をお濃に食らわせた。 □ 「小僧相手に何を手こずっておる!」 武田信玄が、蘭丸と戦闘中だというのに真田幸村の頬を殴った。 幸村がぶっ飛ぶ。 佐助はいつもの事だから何も思わない。 驚いたのは蘭丸だ。 いきなり神同士が喧嘩を始めたのかと、戸惑っていたが信玄が戦斧を蘭丸に向けて来たので我を取り戻した。 「魔王の子よ。ワシが相手になってやろう」 「へん!誰が来ても一緒だよ!みんなこの蘭丸が殺してやる!」 蘭丸はそう言うと、巨大な4本の矢を解き放った。 「クソ!俺は雑魚の相手ばっかかよ!」 長曾我部は碇槍を振り回しながら愚痴る。 何十匹、何百匹の鬼がそれにやられ倒れてゆく。 「文句を言うな!ここから東に、向かわれてはならんのじゃ!」 北条は頭の上で巨大な槍を回して地面に突き刺す。 回りにいた妖が氷ついて動きが止まる。 「こ、腰に来るわい……………」 「おい、じいさん!休んでんじゃねぇよ!」 「年寄りを労らんか!!」 凍った妖が元親の碇槍に付いた重い鎖により、砕けた。 「どいたどいたどいたあぁぁぁ!!!」 前田慶次が鬼達を吹き飛ばしながら駆けつけた。 「おう、風来坊!」 「二人じゃキツいだろ!?」 慶次が長刀を八の字に振り回す。 「ハッハァ!あいかわらず強ぇな!」 元親が碇槍を縦、横と二段攻撃を繰り出すと、大きな炎が巻き起こった。 火に焼かれ、あたりに肉のこげる匂いがする。 「元親の豪快さには負けるよ!」 「ふん。これで少しは楽になるわいっ!」 北条は、ほうっと息を吐くと腰を叩いた。 □ 政宗に明智の鎌が襲う。 それをなんとか受け止めて、至近距離で技を放つ。 「MAGNUM STEP!!!」 ギシャアアアアアアアアぁぁぁぁぁぁっっっ!!! 強力な突きにともない、蒼い雷が発生しそれを浴びた明智が絶叫を上げた。 何故、小十郎の黒雷は平気で、自分が出すそれほど威力もない雷に、明智が声を上げる程痛がっているのか政宗には分からない。 明智の身体がゆらりと揺れて、その後俯く。 そしてその顔がまた上がった時の明智の顔は、恐ろしく歪んでいた。 「気にいらない力をお持ちですねぇぇぇぇ!!!」 怒ったのだろう。 明智の殺気が政宗に向かう。 「 信長と対峙して動かなかった小十郎が一声あげると、真っ黒な大蛇が政宗の前に現れる。 「What!?」 政宗が突然現れた大蛇に戸惑った。 「片倉の旦那の式神みたいだね」 「式神など鬱陶しいと絶対に契約せんかったのにな」 いつの間にか隣に佐助と家康がいた。 「あいつに式神なんていたのか?」 「お姫さんを守る為に契約したんでしょ」 家康と佐助は黒い大蛇と共に明智に挑む。 「おお、怖い怖い……………」 明智は馬鹿にしたようにそう言った。 「光秀ぇぃ!何をしておる!早くしとめぬか!」 「おっと。余所見してちゃあ、命が散るぜ?」 小十郎は信長に切り掛かる。 それを信長は外套ではね除けた。 魔王から伸びる黒い影の触手が、小十郎の後ろから狙ってきたが、小十郎はそれを蹴って消滅させた。 小十郎の回りに幾本もの触手が現れる。 「めんどくせぇ事せずに本気で来いよ。それともおねんねしてる間に弱くなっちまったか?」 小十郎は刀を地面に突き刺した。 それだけで触手がゆらり揺らめいて、消えた。 「……………すぐに貴様を 信長の眼には既に小十郎しか映らなくなっていた。 家康が明智に疾る。 明智の鎌が家康の腕を狙うので、家康は身体を回転させて明智の背後から狙う。 家康の動きは速いが、武器を持たぬ為獲物の長い明智とは少々相性が悪い。 家康に気を取られている間に、佐助がクナイを明智に投げるが、いとも容易くそれを鎌の柄で受けた。 その鎌を振ると、柄に刺さったクナイが政宗に向かう。 それを黒い大蛇が大口を開けて飲み込む。 「こ五月蝿い、蠅どもです……………」 明智の鎌が家康の腹に刺さった。 「ぐぁっ!!」 明智はそのまま、動かずに笑ってから鎌を血まみれた家康の腹から抜く。 「ごちそうさまです」 明智の瘴気が先ほどより濃くなったのに政宗は気付いた。 家康から何か力のような物を吸い取ったのだろうか。 家康の傷はそう深くないようですぐに立ち上がった。 「忠勝!来い!」 家康がそう叫ぶと、妖を相手にしていた忠勝がすぐに家康のところに飛んで来る。 「おやおや、3人で私を喜ばしてくださるのですか?」 敵が増えたというのに、明智は何故か嬉しそうに笑う。 そしてそれとは逆に政宗は歯ぎしりをした。 3人。自分は明智の数にも入っていないということだ。 (天下の独眼竜と恐れられていた頃が懐かしいぜ……) 明智は家康、佐助、本多を相手にしていると言うのに、合間合間に政宗に攻撃を仕掛けて来る。 決して3人が弱い訳ではない。 あまりにも明智が強過ぎるのだ。 ついに佐助は 本気を出したのだ。 明智の足に喰いかかる。 「ああ、痛い、痛い……………」 痛みに喜びながら明智は、己の足に食い付いている佐助に鎌を振り下ろす。 佐助は足から牙を抜いてそれを避けようとしたが、右足に鎌の刃が当たり血をにじませる。 「妖狐でも血の色は美しいのですねぇ」 血が付いた鎌の刃を明智が舐めた。 「そして美味しいですよ」 クックックックックッ……………!!あははははははははは……………! 明智の笑い声が木霊する。 「もっと!もっと!もっとです!!私の渇きを癒してください!」 明智は近くにいた妖に鎌を震った。 妖や鬼どもが逃げ惑う。 その鎌が血に染まる度、明智の瘴気と狂気が増して行く。 既に敵味方関係ない程に気分が高揚しているようだ。 そして明智は政宗を見る。 警戒した黒い大蛇が、政宗と取り巻くようにとぐろを巻いた。 明智は鎌を振るい、たくさんの衝撃派を政宗に繰り出した。 黒い大蛇はそれを身を盾にして全て受け止めた。 政宗には一つの傷も付いていない。 「お、おい!お前大丈夫なのか?!」 政宗が心配するほど、大蛇は血を流している。 姿もうっすら一瞬消えかけた。 それでも大蛇は政宗から離れようとはしない。 どうやらこの黒い大蛇は攻撃はせずに、ただただ明智から政宗を守るという使命だけを果たそうとしているらしい。 隙を見て、向かってくる妖は政宗が切り捨てているが、その妖や鬼には大蛇は反応しないからだ。 その時、政宗が急に膝をついた。 (なんだ?急に身体が……………) 刀を握っている事も出来なくなり、政宗の手から刀が落ちた。 黒い羽が政宗を取り囲む。 「お姫さん!?」 一番に異変に気付いたのは佐助だった。 大蛇も政宗の様子に戸惑って鎌首を、守るべき対象に向けて心配そうに見ている。 佐助が政宗の所に駆け寄ろうとした瞬間。 政宗の姿がこつぜんと消えた。 信長と応戦していた小十郎の身体がびくりと跳ねた。 政宗の気配が急に遠のいたからだ。 小十郎は魔王に向かって放射状の雷撃を放ってから、黒い大蛇の所に奔った。 「政宗は!?」 大蛇は首を横に振る。 「一瞬だけど、見えたよ。連れ去ったのは欲神の所の式神だ」 佐助が明智から離れ、小十郎の傍に来てそう伝えた。 「松永が!?」 小十郎は空に飛び上がる。 「ちょっと!!竜の旦那!?」 「政宗を取り返しに行く!!」 「待て!!今お前に戦を抜けられれば、ここは持たん!!!」 家康が焦って小十郎を止める。 「知った事か!!!」 小十郎はそう言い投げて政宗を追った。 「信長公」 明智はどうしたものかと魔王に訊いた。 「愚かな奴よ……放っておけ。このまま全てを滅ぼし東へ進む」 ■次のページ ■異世界設定小説に戻る ■おしながきに戻る |