桶狭間につくと、先に行っていた元親が大暴れしているのが一番始めに見えた。 醜い鬼が妖達が、元親の碇のような槍に当てられ大きく吹き飛んで行く。 元親が二人に気付いた。 「遅いじゃねぇか!!先にやってるぜ?!」 小十郎は空で刀鞘ごと構えると、目にも止まらぬ早さで横切りに抜いた。 その衝撃派にやられて、鬼達が数多く切られ倒れた。 鬼達の死体の山に小十郎と政宗は降り立つ。 政宗もすでに刀を一本抜いて、小十郎の背に立つように妖を切り捨てた。 遠くで妖達が逃げる気配がして政宗がそちらを見ると、 大きな 「家康の式神、本多忠勝だ」 「あれが式神!?」 あまりにもの強さと異様な風体に政宗が驚く。 その驚いた声に本多は一瞬政宗の方を向いて、妖を追うのを止めた。 そして、家康がいるであろう方向に戻って行く。 政宗もただ見ているだけではない。 本多や他の神の足下にも及ばないが、妖を屠ってゆく。 敵を切って道を開いてゆく時の高揚感が久しぶりに灯る。 日の本が一つに成って平和になったのは本当に嬉しい事だったが、 戦の楽しさを忘れる事が出来ない自分は、本当に武人の血が流れているのだなと思った。 その時、政宗は嫌な予感がして、本能的に身を左に避けた。 パンッ! 鉄のつぶてに似た物が政宗のすぐ左を通り抜けた。 政宗は攻撃された方向を見る。 そこには、黒髪を結い上げた着物姿の女が笑って立っていた。 政宗は口笛をひゅぅと吹く。 「えれぇ美人だ。アンタも魔王の手下なのか?」 「偉大なる魔王、上総介様の妻。お濃」 名乗った濃姫が連続して鉄砲を撃ち続ける。 人が使う鉄砲と違って、弾を込めなくても無限に撃てるようだ。 「もったいねぇなぁ、魔王なんかやめてオレの所に嫁に来る気はないか?」 「ぼうやにマムシの相手が出来ると思って?」 「Ha!……よく分からねぇが、振られちまったか!」 濃姫が休む間もなく撃ち続けるので、政宗は刀でそれを遮る。 少しずつ間を詰めて行くが、政宗は防御に徹している。 「手加減してるつもりかしら?」 「オレは、 「優しいのね」 濃姫は炎をまとった回し蹴りを政宗にくらわせた。 政宗はそれを防ぎ、濃姫との距離が少し開く。 「伊達!何をしている!!」 かすがが後ろからクナイを投げた。 濃姫はそれを銃で撃って跳ね返した。 「謙信様が剣、かすが。魔王の妻、私が相手だ」 かすがが濃姫に疾く走り向かった。 「政宗!女だからと手加減していたらお前がやられる!」 小十郎が敵を切りながら政宗に怒鳴った。 「そう言われてもなぁ……………」 政宗は苦笑しながら、敵を切る。 「濃姫様が嫌なら蘭丸が相手だ!」 突然、十歳を過ぎた頃の子供が、弓に乗って政宗にぶち込んで来た。 「What!!?ガキじゃねぇか!!」 「子供だからって馬鹿にするなよ!お前を殺して信長様に褒めてもらうんだ!」 「おいおい……………」 戸惑いながら政宗はまた、刀一本で応戦する。 蘭丸は、飛び上がりざまにたくさんの矢を政宗に放った。 「ガキは家で菓子でも食ってろよ」 「なんだ?蘭丸が怖いんだろ?」 あははは!と無邪気に笑う蘭丸に政宗は顔をしかめる。 無邪気に命を奪うという生き方は、それこそ魔のものなのだな……。 そう思ったが、どうしても見た目が子供なのでこれまた六爪を抜く気にもなれない。 「政宗!頼むから本気で戦ってくれ!!」 小十郎が蘭丸に黒い雷を放ってから政宗に懇願した。 「どいつもこいつもお前を狙ってるんだぞ!」 政宗は小十郎にそう言われて、しかたなく六爪を持ったがやはり動きが鈍い。 「お姫様を守るのは、王子様の役割って知ってる?真田の旦那!」 佐助と幸村が敵の波を割って、政宗と小十郎の所に着く。 「某、真田源二郎幸村!魔王の子よ。姫に手を出されるな!」 「へへん。神をたくさん殺せば信長様にもっと認めてもらえる!」 蘭丸は政宗から、意識を幸村と佐助に向ける。 蘭丸と戦わなくて済んで政宗は幾分ほっとした。 「政宗っ!」 小十郎が政宗の腕を引いた。 ぶんっ! あやしい光を放つ鎌が政宗の髪を一房切った。 「おやおや残念。はずしてしまいました」 白に近い銀色の長い髪が風に流れた。 「明智光秀………っっ!」 政宗は一気に本気を出し、六爪を明智に降り下ろした。 「それに、黒き竜の神。神魔戦争以来ですね」 それを避けて、明智は鎌を薙ぎ払う。 小十郎は刀で鎌を受けると、刀を通して雷を明智に放った。 「痛いですね」 明智は痛みに喜んでいるように笑う。 政宗は、すい、と小十郎の前に出た。 「この前は世話になったな。また会えて嬉しいぜ」 「これはこれは。私もお会いしたかったですよ」 政宗は六爪を持った右手を明智に向けた。 「アンタに一太刀でいいから、浴びさせたい」 「おや。一太刀でよろしいのですか?」 「実力差くらいは分かる。我ながら情けないがな」 政宗は明智に向かって 小十郎は明智の後ろに回り込んだ。 「控えめなお考えですが」 小十郎の放った黒い雷が斬撃となって明智を襲った。 それを受けたというのに、明智はびくんと身体を震わせただけで、光悦の表情で政宗に言った。 「一太刀でも無理でしょうね」 あはははははは………! 明智は笑って、大きく左右に鎌を振り回す。 政宗はそれを避けながら、蒼い雷を明智に落とした。 小十郎の一撃のように受けるかと思ったが、明智は政宗の雷は避けた。 小十郎の雷より威力は断然弱いのに、何故わざわざ避けたのだろうか? 政宗は 明智の腕に刀の切っ先がかすり、そこからうっすらと血が流れる。 「Ha!余裕ぶってた割には避けきれなかったな?」 政宗は唇をぺろりと舐めて笑ってやった。 明智は血の流れる己の腕を意外そうに見ている。 政宗がその隙に再度刀を振りかざそうとしたその時。 今まで感じた事のない禍々しい気配を感じて、政宗は攻撃を止めた。 「愚か者が…何を遊んでおる」 禍々しいと政宗が感じた所に1人の男が立っていた。 己と姿形は大きく変わらない。 身体の大きさだけ言えば、武田信玄や本多忠勝の方が大きいというのにその男の存在感、圧迫感は凄まじい。 銀色の鎧を身につけ、左手に銃、右手に剣を持っている。 血の色の異国風の外套が風に巻き上げられ、ばたばたとはためいている。 政宗はその男を見て、立ちすくむ。 瘴気の渦のが襲いかかり、政宗は思わず吐きそうになった。 誰に訊かなくても瞬時で分かった。 あれが「魔王織田信長」だ。 政宗の額から頬へ汗が流れた。 「はああああっ!!!」 その男に黄色い影が襲いかかる。 家康の繰り出した拳が魔王に届く前に、黒い物質的な影が家康の攻撃を塞いだ。 その影が蜘蛛の足のように広がり、家康を襲い返す。 それに捕まる家康を助けるために、慶次が大きな刀で黒い影を切り離した。 家康を捕らえていた黒い手が消滅する。 本多忠勝が家康と慶次の前に立ちはだかるが、魔王は忠勝達を見る事も無くまっすぐに、小十郎達の所にやってきた。 「うぬが、新神か」 擦れた深く低い声の男、が政宗を見た。 「アンタが魔王?ただのおっさんだな」 背中に冷や汗をかきながらも、政宗はそう言った。 「虫けらが、そう強がるな」 馬鹿にしきった顔で魔王は笑った。 小十郎が政宗と信長の間に入る。 「また、俺に封じ込められる為に奈落から這い出てきたか」 「もとより第六天の頂に立つはこの信長ぞ。這い出る必要もなかろう」 「その割にゃあ、三千年も地獄でゆっくりしていたみてぇじゃねぇか」 信長はわずかの間黙ってから明智を見て口を開いた。 「光秀」 光秀は、耳まで届くのではないかと言う程に唇の両端を釣り上げた。 「楽しい楽しい、狩りの始まりです」 光秀は長い髪を乱れさせて、政宗に襲いかかった。 ■次のページ ■異世界設定小説に戻る ■おしながきに戻る |