「おーい!政宗!!」 鳥居をくぐって、大男が社に入って来た。 「バカちか……。何の用だ?」 元親は苦笑する。 「そう邪険にするなよ。いいもん持って来てやったのによ」 「いいもの?」 「あんたが人であった時の話聞いてよ、必要なんじゃねぇかと思ってそろえてやったぜ?」 元親は政宗に桐の箱を差し出した。 「……すげぇ」 箱の中には6本の刀が入っていた。 あやしく光るその刀は、威圧感さえ溢れさせていた。 一目で分かる名刀だ。 「6本の刀を爪のように振るうから独眼竜と呼ばれたんだろう?」 「……………強い力を感じる」 政宗は刀を少し抜いて目を細めた。 「俺のお宝の中でも良い物ばかり持って来た。これ少しは力が増すだろう」 「こんなに素晴らしい刀ばかりを……………」 「神器の収集だけは、松永にも負けねぇぜ?」 にやりと笑う元親に政宗は首をひねる。 「松永?」 「ああ、政宗は知らねぇよな。欲神松永久秀っつーおっさん」 「欲神?欲を司る神?」 「あのおっさんだけはなぁ?」 元親が佐助を振り返った。 佐助とかすがは頷く。 「またあれも変わり者の神さんだからね。神が勝とうが魔が勝とうがどうでもいいってぇんで自分の世界に入っちゃってるようなお人」 「そんな神もいるのか」 「皆が片倉の兄さんの言う事聞いてくれりゃ、ちっとはましな戦いになるんだろうが、それぞれ事情もあるからな」 それでは人の乱世とそう変わらないではないかと、政宗は思った。 「それで、この刀貸してくれるのか?」 政宗が聞くと、元親が笑って答える。 「そんなせこい事言う男に見えるか?あんたにやるよ」 政宗が口笛をふいた。 「豪華な贈り物だな。ありがたく貰っておくぜ。アンタ、思っていたより良い奴なんだな」 「下心も込み、だ」 元親が政宗を抱き寄せようとしたら、かすがのくないが元親の太い首に当てられた。 元親の口元が引きつる。 「……………何だよ?」 「謙信様に伊達を守るようにと仰せつかまっている」 「それは魔王に対してだろうがっ!!」 「お前の下心も魔と変わらん。用事が済んだなら帰れ」 「俺の扱い酷くねぇか!?」 「ならば不用意に伊達に近づくな」 「式神が海神にその態度はねぇだろうがっ!」 「私が仕えるのは謙信様だけだ。あとの神はどうでもいい」 「ちょ、おい佐助!こいつどうにかしろよ!」 「いや〜、俺様的にはお姫さんに手ぇ出されると、真田の旦那がうるさいからね。なんとも言えないよ」 3人がぎゃーぎゃー騒いでいると、ぶわっと大きな空気の波が立った。 政宗が試しに刀を抜いて、振ってみたのだ。 「なんて刀だ。ただ軽く振っただけなのに」 「おうおう。今まで使い手がなかったような代物だからな。あんたとは相性いいみたいじゃねぇか」 政宗はにやりと口元を歪ませた。 「丁度いい。元親、相手しろよ」 「 とぼける元親に、政宗は問答無用で切り掛かった。 元親は肩に乗せるように持っていた大きな槍で受け止めた。 激しく音が鳴る。 「閨事の相手なら嬉しかったんだが、まぁ喧嘩もいい。揉んでやるとするか!」 政宗と元親の手合わせが始まった。 「あ〜あ、お 「戦うのは別にいい。殺し合わないのならば。伊達の顔を見てみろ、楽しそうだ」 政宗が竜の姿に成れなくて、ずっと隠れて落ち込んでいたのをかすがは知っている。 だから政宗が嬉々として交戦している姿を見て少しほっとした。 「はは、いい腕じゃねぇか!!」 「独眼竜は伊達じゃねぇぜ?」 政宗が乗りに乗って六爪を抜いた時だった。 鳥居の上にまばゆい光が現れた。 「走りだ!!」 元親と政宗は戦いを止めて、『走り』を見た。 「光なら、家康か!!」 「長曾我部!伊達を頼む!私は謙信様のところへ戻るぞ!」 言うなりかすがは、金色の鳥の姿に成り飛び立った。 「俺様は家康公のところへ行く。お姫さん達は竜神の社へ!」 「行くぞ!政宗!」 元親と政宗が竜神の社につくと、小十郎が外で待っていた。 「小十郎、何があったんだ」 政宗は小十郎に近づきながら訊いた。 「魔王がついに動き出した」 「家康は?」 長曾我部の言葉が続いた時に、佐助が真田と到着する。 「織田と家康公が桶狭間にて交戦中だ」 「上杉殿はかすが殿と先に桶狭間に向かわれた」 真田と佐助が報告する。 「俺たちも尾張に向かう。走りを待っている時間もない。佐助、他の神にすぐさま桶狭間に向かうように伝令しろ」 「了解!」 佐助はすぐに姿を消した。 「いっちょ派手に行こうか!」 長曾我部がそう気合いを入れて、槍についた鎖をがちゃんと鳴らして飛んで行く。 小十郎と政宗だけが社に残った。 「オレたちも、」 飛び立とうとした政宗を小十郎が止めて言った。 「人であった時の戦のような、無茶は絶対にするな」 「自分の実力くらい分かってるつもりだぜ?」 「俺の傍を離れるなよ」 「自分の身くらいは守れるさ」 「魔王との戦いを舐めてはいけない」 「お前は神々の総大将なんだ。俺の事より戦の事を考えな」 小十郎は少し眉をしかめた。 そんな顔をするなと、政宗は小十郎の胸を拳でとんっと叩いた。 小十郎は自分の胸を叩いた政宗の手を取る。 何をするつもりだろう?政宗は不思議に思って見ていると、左の薬指に指輪をはめ込まれた。 「何?」 「竜神のご加護がありますように」 「なんだそりゃ」 竜神はおまえじゃねえかと政宗は笑う。 「俺の角から作った物だ。お前を守る力がある」 「へぇ……………」 「左の薬指は核に近い。他の指にはめかえるなよ」 政宗はその指輪を見てちょっと赤い顔をした。 「 「なんだ?」 小十郎も政宗の使う特別な言葉を覚えてきているが、知らぬ言葉に聞き返した。 「契約済みだって意味で恋人同士なんかが指輪を交換して、左の薬指に付ける習慣が他所の国である。 だからこれは婚約指輪なのかって訊いたんだ」 小十郎は、政宗をぎゅっと抱き締める。 自分の角から作った指輪をはめた政宗の薬指に、口づけを落として言う。 「契約の指輪なんぞなくとも、お前は既にもう俺の物だ。勝手にその身体に傷をつけさせる事は許さないからな」 政宗は笑って、その愛だか独占欲だか分からない台詞を受け止めた。 「行こう。神としてのオレの初陣だ!遅れちゃ様にならねぇ!」 そうして二人も戦場へと飛び立った。 ■次ページ ■異世界設定小説に戻る ■おしながきに戻る |