到着 (5/17)



カラクサシティでは、まずポケセンにみんかで向かうことにした。捕獲数競争のあとすぐに、博士から案内するので来るようにと連絡があったのだ。
ライブキャスター持ってないわたし超どんまい、確かポケセンの近くに支店があったはずだ。あとで買いに行かないと。

「おーい、博士ー!」

ポケセン前でわたしたちを待つ女性が見えて、トウコが大きく手を振った。
ちなみに僕は分かってるから、とどこかへ行こうとしたチェレンの服の裾を握りつつ。幼なじみと久々に再会したというのに、彼はクールだ。照れ隠しかも知れないけど。

ポケセンでアララギ博士はまずポケモンの体力の回復の仕方を説明した。ジョーイさんにポケモンを預けている間、パソコンやショップ、テレビ電話に、更には宿泊施設や食堂まで、博士は大ざっぱではあるが全体的に説明も混じえて案内してくれた。
……とは言っても、わたしはポケセンの中ってやっぱりどこの地方でもほとんど同じなんだな、と感心していたのだけど。

 **

預けていたポケモンを返してもらうと、アララギ博士は今日中にカノコに戻ると言うので、見送りのため1度外に出ることにした。あたりは夕暮れ色に染まっていて、今日はポケセンにお泊まりだねえ、なんて話し合う。

「では、これでわたしは1度失礼するわね。何かあれば連絡するから。……それでは、きみたちの旅が実り多いものでありますように!」
「博士、今日は本当にありがとうございました! 図鑑も頑張って集めますからねー!」
「ええ、よろしくね。それじゃあ、またね!」

博士を見送って、わたしたちはポケセンに戻る。
宿泊部屋を借りて、鍵を受け取り指定された部屋に向かう。4人部屋なので、わたしとトウコ、ベルの3人で一部屋、チェレンは1人で一部屋を借りることになった。いくら幼なじみと言っても、男女だからね。

4人部屋は二段ベッドが2つと、窓際にはテーブルが1脚に椅子が2脚、それから小さな冷蔵庫があるだけの、こぢんまりした空間だ。
シャワールームとお手洗いはもちろん男女別、部屋には設置されていないので、一階の一角にあるものを使うことになる。シャワールームの隣にはポケモン専用のシャワー室。

部屋ではトウコとわたしが二段ベッドの1段目、ベルはトウコの上の段で寝ることになった。
ベルやトウコは掛け布団の軽さ・ふわふわ加減に感激し、更にベルは「2段ベッドでこうして寝るの、憧れだったんだよう!」とはしゃいでいた。

「2段目ってわくわくするよねー、自分の部屋もらえるまではトウヤとよく上の取り合いしてたよ」
「わたしが姉さんと寝てた頃は2段目ずっと譲ってくれてたなあ。たまに交換はしたけど」
「コハクのとこのお姉さんは年が離れてるもんねえ、よく朝早くに出かけてたの覚えてるよ」
「お姉さん、無理して体壊してたりしない?」
「全然! 体調管理はホントしっかりしてるから大丈夫だよ。育て屋たるもの、自己管理が大事だって」
「あー、確かに。育てる人が倒れちゃったら大変だもんね」
「母さんがパートの日は一緒に早朝に起きなきゃだったから大変だったよー。……っと、そうだ」
「なに?」
「ポケモンと挨拶してもいい? 新しい旅始めるたびにやってるの!」
「それならあたしもやるー」
「あ、あたしも!」

ベルが2段ベッドから下りてきて、トウコの隣に腰を降ろす。
トウコのボールから出てきたのはミジュマル、ヨーテリーに、ミネズミ。ベルの手持ちはポカブとヨーテリーだ。
わたしもミジュマルとヨーテリーをボールから出す。

「ヨーテリーが3匹だ! なんか変な感じぃ」

そうトウコが笑う。
それぞれの手持ちが、他のポケモンたちを興味深そうに見つめているのがなんだかおかしくて、でもずっと眺めるのも気が引けたから、わたしは自分の手持ちに声をかけることにした。

「ミジュマル、ヨーテリー。2人とも、今日はお疲れ様。改めて、自己紹介するね。わたしはコハク、一人前のポケモンブリーダーを目指してます。今日からは君たちのパートナー……もといトレーナーになりました。至らない部分も多いけど、よろしくね」

笑いかけると2匹とも笑い返してくれた。
ヨーテリーはぶんぶんと大きく尻尾を振っていて、かわいらしい。人懐っこくて陽気……なのだろうか。ヨーテリーも性別はオスだった。

わたしたちの様子を見ていたトウコやベルも同じように自分のポケモンと挨拶をして、それからはそれぞれ自由に……でも物を壊さない、怪我を負わない、他の人に迷惑をかけない範囲で行動させた。トウコたちもポケモンたちも、緊張をほぐれたのが見て取れて一安心する。

 **

それからわたしはライブキャスターを買っていないことにも家族に連絡してなかったことに気付いて、慌ててライブキャスターを買いに行き、そのあとポケセンのテレビ電話を借りにいった。
ジョウトで使っていたポケギアは実家に置いてきてしまったし、それに顔を見せたほうがいい気がした。

何度かの呼び出し音のあと、暗かった画面が揺れてそこに映し出されたのは姉の顔。
十数時間振りに見るものに、少しだけ安心した。

「姉さん、今朝ぶり」

ちょっと笑って言えば、無事に着いたみたいだね、良かった。今どこにいるの? と姉も破顔する。普段と変わらぬ姉の姿に安心して肩の力が抜けたことに気付く。自分もずっと緊張していたのだと今さら理解した。
イッシュは今、夜の9時半だけど、ジョウトやカントーは13時間進んでいる。だから……向こうは朝の10時半か。変な時間にかけちゃったな。

今夜はカラクサに泊まること、幼馴染と共に旅立ったこと、アララギ博士は博士として頑張っていること……。
今日の出来事を大まかに報せると、姉は「そう、それなら良かった」と言ってから、悪戯っぽく笑った。

「寂しくて泣いてるんじゃないかと思った」
「さ、流石にもうそれで泣かないよ!」
「ふふっ、じゃあ、仕事戻らないと。そろそろ切るわね。あんたも早く寝るのよ」
「うん、頑張ってね」
「はーい、……あ、そうだ、コハク」
「なにー?」
「あんた、巻き込まれ体質なんだから気を付けなよ。何かあったら絶対1人で抱え込まない、周りに頼る。トレーナーとしてトウコちゃんたちの先輩なんだから尚更。分かってるよね?」
「分かってるよー! だいじょうぶ、無茶しないから」
「言ったね? それじゃ、トウコちゃんたちをよろしくね。友だちとしても、ちゃんと協力しあうんだよ」
「うん、分かってる。ありがとう。姉さんも体調に気をつけて。……それじゃ、またね」
「ベストウイッシュ、良い旅を!」
「ばいばい、仕事応援してる!」

電話を切ると、安心感からかどっと疲れがきたような気がして、早々に部屋に戻る。
そろりと宿のドアを開けると、うっすらオレンジ色の電気がついていて、豆電球だけついている状態なのだと分かった。薄暗い部屋の中で、かすかな寝息が2つ、聞こえてくる。トウコやベルには部屋に戻るのが遅くなると思うと伝えておいたけど、わずかに明るい部屋の中で先に寝た幼馴染に、疲れてる2人に気を遣わせてしまったな、と反省する。
ポケモンたちもすでにボールに戻って休憩に入っているみたいだ。
おやすみなさい、返事が返ってこないことが分かっていてもそう2人とポケモンたちに声をかけて、電気を消してわたしも布団に潜り込むのだった。


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