羅列する本の背中の文字を順々に読み取っていって、一つのそれに目を止めると少年は小さく笑みをこぼした。
 その背には「黄昏の宴」とある。その本を取ると、彼はすでに手に持っていた一冊の本に重ねて満足げにする。

 緑の街、リエール。
 植物が豊かに生い茂り人々の心を和ませる、それがリエールの特徴だ。他にも緑豊かな街は世界中に点在するとされるが、観光客や旅人は口を揃えてリエールの緑が一番だ、とこぼすのだ。植物に適した環境がそろっているということだろう。

 そんなリエールの一角には、木々に囲まれた図書館がある。その館内で少年は本を探し求めていたのだった。
 探していた本も見つかり嬉しく感じながら、カウンターへと向かう少年。

「これ、お願いします」

 作業する女性に、本を差し出しながらカウンター越しに声をかけると、彼女が顔を上げ短く返事をする。それから少年を見返して、本を受け取ってから悪戯っぽく笑った。

「いつも来てくれてありがとうね、樹ちゃん。明後日から学校で実習があるんだってね?」
「……もう! その呼び方やめてくださいってばぁ」

 樹ちゃん、そう呼ばれたのは少年で、呼びかけられた彼はあからさまにむっとした表情をした。
 樹というのは紛れもなく彼の名だ。が、ちゃん、と付けられる理由は彼の容姿にある。
 彼は今年十三歳になる男の子だ。小学校を卒業して約二ヶ月、まだ幼いことには変わりがないのだが、同世代の少年と比べ少女に近い顔立ちをしている。また、少年にしては少々長い髪と平均より低い身長もあって少女と間違えられることも少なくない。
 それを樹は気にしているのだが、カウンターの女性――奈々は時々からかっては面白がるのだ。彼女に悪気はないと知っているから、樹も怒る気はないのだけれど。
 樹は一つため息をついて、「……中学に入学して初めての実習です。四日間あるそうで、内一日はこちらの図書館にお邪魔するとか」

「そうらしいね。毎年“守護者”さんたちがやってくるから、あたし楽しみにしてるの」

 図書館で本を借りる際、本の最終ページにある表の描かれた紙に借り出し日と返却日が記される。片面にはその紙が、もう一方のページにはカードの入った小さな袋が貼られてある。本を借りる時にカードを抜き出し利用者の名前、貸し出し日、返却日が書かれ図書館で保管されるのだ。

「樹くんたちも来るんでしょ? 楽しみに待ってるからね!」

 そう言いながら本を差し出す彼女に頷く。本を礼を言って受け取り、奈々に別れを告げ図書館を出た。


 扉を閉め、歩き出そうとしたところでふわりと風を感じた。優しい風に明るい緑の髪が揺れる。
 ――ああ、きっとあの子が来るな、と思う。風が自身の周囲だけで吹いているから。
 五年も前からの友人が来ると分かっては、知らぬ顔をして立ち去るのも気が引ける。彼女が来るまで待っていよう、そう考えて樹は図書館の壁に背を預けると、借りたばかりの本を開いた。

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