僕たち、私たちは3
(十二章より抜粋)


 隙間なく敷かれた二組の布団の上、太一の体を抱き締めながら覆いかぶさる。こんなに胸がうるさいのはいつ振りだろう。太一と両思いなのだと初めて知った、あの瞬間以来だろうか。
 唇を何度も付けては離し、キスを繰り返しながら体を触る。浴衣一枚だけを身につけた太一は簡単にはだけて、俺の鼓動を容易くかき乱した。
 帯に手をかける。腰の横にあった結び目を片手で解こうとするがなかなか上手くいかない。俺がもたついていると、それに気づいた太一が自分の手を添えて手伝ってくれた。
「…ごめん、駄目だ。緊張してる」
「うん、俺も…心臓おかしくなりそう」
俺を見上げながら太一が笑う。こんな時まで笑ってくれるのかと内心驚いた。彼の優しさは筆舌に尽くせないほど温かく、そして深い。
 好きだ、太一。好きでたまらない。優しく微笑むその顔を見ているだけで、胸がいっぱいになる。
 やっとの思いで帯が解けた。ゆっくりと浴衣の前身頃を左右へ開くと、太一の細い体が目の前に現れた。
 太一のこういう姿を見るのはこれが初めてではない。日常の中で何度も、それこそ数時間前に裸だって見ているというのに。それでも俺の心臓は物凄い音を立てて脈を打った。みぞおちがギュッと締まる感覚がする。
「…臣クンの帯も解いていい…?」
今度は太一が俺の帯に両手をかけたので、俺は頷いて彼が解いてくれるのを待った。
 太一も少し時間をかけて俺の帯の結び目を解く。解放された左右の前身頃が太一の方へ降り、俺の体も彼の視界に晒された。
 太一が、俺の体をじっくり眺めながらそっと手を伸ばす。胸の辺りを優しく撫でられ、その感覚がたまらなくて少し体が震えた。
 俺も太一の素肌に触れる。腰の辺りから登るようにして脇まで撫でると、太一は小さく「あ」と漏らした。
「お、臣クン…」
「…ん?」
「どうしよ、緊張する…」
素直に伝えてくれるのが嬉しい。俺もだよと返すと、強張りながら太一は笑った。
 脇の下から手を移動させ胸に触れる。小さな乳首を親指の腹で緩く撫でると、太一は急にそっぽを向いて自分の口を手で塞いだ。
 くすぐったさに耐えているのか、太一の体はずっと小刻みに震えている。拒む気はないらしく、太一は震えながらその行為を受け入れていた。
「…太一、顔が見たい」
「や、やだ」
「どうして?」
「へ、変な顔してるから…今…ま、待って…」
弱々しい声を聞きながら俺は親指だけでなく人差し指も使って彼の乳首を摘まんだ。太一の上半身が一際大きく震えて反応する。
 頭がおかしくなりそうだった。興奮する。胸から頭の先まで一気に火が広がって、燃え盛っているような感覚だ。
「顔が見たい、太一」
「あっ、ぁ…お願い待って」
「いやだ待てない」
そっぽを向く太一の顔を追いかけて唇を繋げる。キスをしながら半ば強引に正面を向かせると、太一が息苦しそうに小さく呻いた。
 唇を離さないまま太一の顔を見る。まるで泣き出しそうに下がる眉尻と、硬く瞑られたままの両目。くすぐったさと恥ずかしさからだろうか、睫毛が小刻みに震えていた。
 唇を離して「好きだよ」と伝えると、太一がうっすらと目を開けて恨めしそうに俺を見た。
「ま、待ってって言った…」
「…ごめんな」
「…臣クンのバカ…」
「太一好きだ」
ああ、こんなことを言ったらまた話を聞いていないと怒られてしまうだろうか。でも駄目だ、思った先から次々漏れてしまう。自分の中に留めておけない。
「もう…恥ずかしくて死ぬ…見ないで…」
太一が手で顔面を覆ってしまったので彼の手の甲に唇を寄せ、指と指の間に舌を忍ばせる。顔を、隠さないで欲しい。どうしても見たい。見せて、太一。
「やだ、な、なめないで…」
「…うん」
意思とは反対の相槌を打って、太一の指の隙間を何度も舌で撫でた。美味しい、と思ってしまうのは、自分がどこかおかしいからだろうか。
 耐えかねた太一が顔の上から手を引いて俺を見つめた。何か言いたげな、怒っているようなその顔も可愛い。ずっと眺めていたい。
「…かわいい、太一」
「…うぅ…」
「好きだよ」
「……も〜…」
まだ何か言いたそうだったけれど、俺は言葉の続きを待たずにまたキスをした。優しく触れるように何度も唇をくっつけると、太一の体から少しずつ力が抜けていく。嬉しい。俺とのキスを心地良いと思ってくれているのだろうか。
 そのまま、キスを繰り返しながらもう一度太一の乳首を触る。一瞬逃げそうになった唇を吸って、逃げてしまわないよう舌を繋いだ。人差し指で引っ掻くように刺激すると、繋がれた口から太一のかわいい声が引っ切り無しに溢れた。
「ぁ、ぁ、あ…」
かわいい。まるで小さな動物が鳴いているみたいだ。愛らしい生き物にいかがわしいことをしているような背徳感が少しだけ湧き上がり、余計に興奮してしまう。俺は俺が思うよりずっとはしたない。
 引っ掻いたり摘まんだり、くすぐるように撫で回す。繋がった口から漏れる声はもうきっと、くすぐったさを感じているだけではない。甘い。熱い。耳が溶けそうだった。
「ん、ん…」
太一が鳴きながら俺の首に両手をかけ、うなじの辺りを撫でる。愛撫しているのはこちらの筈なのに、自分の方が彼に包まれているような感覚がした。
 舌を休め、ゆっくりと口を離す。太一と俺の唇を唾液の糸が繋ぐ。太一の目を見つめると泣き出しそうな顔で「臣クン」と、名前を呼ばれた。
「…うん?」
「どうしよう…やだ…」
「……」
拒否の言葉かと思い、一瞬息が止まる。嫌な思いをさせたか。怖がらせてしまったのかもしれない。強引な節があったかもしれない。
 もう続きを望んではいけないのかという考えが一瞬頭をよぎり、だけどそんなのは無理だと思った。無理だ、できない。優しく笑って引き下がるなどできるわけがない。
 けれどそうではなかった。続く太一の言葉は、俺のなけなしの理性を粉々にして彼方へ葬ったのだ。
「こ、ここ…いじったことなんかないのに…」
「……」
「…は、初めてなのにやだ…なんでこんな気持ちいいの……」
身体中が総毛立って、背中全体が燃えるように熱くなる。あまりの熱さに鳥肌が立つだなんて、こんな感覚は今まで味わったことがない。
 息を呑んだ。今度は両腕を交差させて目元を隠している太一を見下ろしながら、俺はお前にどこまで燃やされるのかと、怖くなった。
 首筋にキスをして、いっそ噛みたくなる衝動を必死で抑える。俺は怖い。怖いよ。お前が好きで仕方なくて、際限などなくて、全部燃やされて、いつか灰になってしまうかもしれない。
 太一、怖いよ。どうしたら良い。
「…優しくしたいんだ」
なんとか捻り出した自分の声がひどく掠れていた。もう、まるでこれは祈りだ。
「優しくしたい。本当にそう思ってるんだ。…太一」
「…お、臣クン…?」
「…できなかったら…どうしよう…」
漠然と広がる恐怖に思わず弱音が漏れる。怖いかと尋ねたのはどの口だったかと自分に呆れた。自分の下半身が俺を急かすように勝手に硬くなる。俺の体を、俺が操作できない。
「……いんだよ」
太一がふわりと舞う羽のように優しく笑って、俺の頭を撫でた。
「優しくしたいって思ってくれる臣クンも、できないかもしれない臣クンも、全部嬉しいよ、全部欲しい」
「…太一」
「大丈夫、怖くないよ」
それは太一が自分自身の気持ちを伝えてくれたのか、こちらの不安を和らげるためかけてくれた言葉だったのか。
 どちらだとしても変わらない。その声の温かさにたまらず泣きそうになってしまって、俺は彼の首元に顔を埋めながら強く目を閉じた。
「…好きだ、太一」
「うん、俺も臣クンが大好き」
「…かっこ悪くてごめんな」
「臣クンは世界一かっこいいよ」
当たり前のように返ってくる言葉に安堵して、ゆっくり息を吐く。ああまるであやされているみたいだと思った。みっともなく縋る自分のことさえ、彼はこうして受け入れてくれる。
 俺が顔を上げると太一はニッと歯を見せて笑ってくれた。
 …何度お前に、救われてきただろうと思う。これから先も一体どれだけ、お前に救われるんだろう。
 左右のピアスが揺れるように光って見えたのは、どうしてかな。俺の目に、涙の幕が薄く張っているからかもしれないな。
「…好きだよ」
もうこの口は、太一への想いしか吐かない。それで良い。太一でなければ俺の胸はこんなに熱くならない。鼓動は、脈は、もうひたすら太一だけに向かって打たれる。
 首に舌を這わせて、そこから滑り落ちるように胸へと向かう。乳首を舐めると太一の体に力が入るのが分かった。
「あっ」
舌を動かす度に太一が鳴いた。かわいい。夢を見ているのかと錯覚しそうになる程だった。
 段々と夢中になって、音を立てて吸い上げたり柔く噛んだりした。太一の声の音量が次第に上がる。俺の性器もそれに比例して熱く硬くなった。
 太一の下半身に触れたくなり、下着にゆっくり手をかける。遮られるかと思ったが太一は腰を浮かせ、俺が脱がせるのを手伝ってくれた。
 性器をそっと触る。反応してくれている。嬉しい。竿を握ってゆっくり擦ると気持ち良さそうな喘ぎ声が聞こえた。
「は…ぁ、あ…」
乳首を舐めながら彼の性器を扱く。太一にもっと感じて欲しくて、声をもっと聞きたくて、わざと乳首を吸う度に大袈裟な唾液音を立てた。
「だめ、あ、あっ!臣クンやだ、あっ」
体が何度もくねったり仰け反ったりする。けれど俺は太一の乳首から口を離さず刺激を与え続けた。性器を扱く手の力も少しだけ強める。先端が濡れてきた。カウパーが滲んできているのだ。射精が近いのかもしれない。
「やだ、やだっ…待って待って待って!ま、まだやだっ…」
「うん」
乳首を愛撫しながら適当な相槌を打って、彼を追い詰めるように手の動きを速くする。
「臣クン、あっ…臣クン!やだよ、 やだ、俺イッちゃう、やだっ…」
泣き出しそうな声に興奮する。心臓がギュッと握りしめられ、その顔をどうしても見たくなった。乳首から口を離し、太一の顔を近くで見つめる。太一は口元をガクガク震わせ、懇願するように何度も「お願い」と繰り返した。
「臣クンやだ、お願い、お願い」
「うん、イッて」
見つめながら太一の性器を責め立てる。彼から溢れた液でそこはヌルヌルになり、いやらしい音を立て始めた。泣きながら首を横に振る太一を黙って見つめ、心の中でごめんなと唱えた。
 ごめんな、お前のお願いは聞けそうにない。声を聞く度に加速するんだ。俺にももう、どうにもできないんだ。…ごめんな。
「あっ、あっ、やだ、離して離して離して!だめ、だめっ…」
「イッて太一」
「やだっ…あっ、あっ」
「イッて」
額を擦り付け、息が触れ合うほど近くで太一を見つめ続ける。もう、腰が揺れている。嫌だと言いながら快感を求めてお前の体は動いてしまう。その様に気が狂うほど興奮した。俺の手で、俺だけに見られながら、イッて。太一。
「…っ!イく、イく…っ」
その瞬間太一の腰が少し浮いて、擦った性器の先端から精液が勢い良く放たれた。太一の下腹部に飛んだ後もダラダラとそれはこぼれて俺の手を粘つかせた。
「……すごい量だ」
腹にかかった精液を掬って、指先で弄びながら眺める。彼の体内で作られた液体に俺は今、直接この手で触れている。そう思うと恍惚感でじんわりと胸が満たされた。
「…お、臣クンのバカぁ…」
俺の体の下で太一が涙を浮かべてそう言った。いけない、泣かせてしまったと思うのに、この泣き顔も俺しか見れないのだという事実に興奮してしまう。駄目だ。止まれ。優しくしたい、どうしてだできない。
「…太一ごめん」
「ごめんで済んだら警察いらないッス…」
「ごめん、本当に。…駄目だ、殴ってくれ」
「……もう…」
願いを聞いてやれないことも、殴ってくれという本音も、結局どちらも太一を困らせる。本当に俺は勝手だ。どうしてこんなに自分を思い通りにできないのだろう。
「…臣クン、ほんとに本気の時はこんな風になるんだ…」
「…ああ、そうだな…」
「…も〜……」
太一は目元に溜まった涙を片腕でゴシゴシ拭いて、それから唇を尖らせた。
「俺、最初からこんなにされたら…絶対最後まで保たないよ」
「…うん、ごめん」
「絶対臣クン置いて先にへばっちゃうから、もうちょっとだけゆっくりやってほしいッス」
「……分かった。肝に銘じる」
「…」
太一は俺の首に手をかけてその顔を俺の胸元に埋めると、小さな声で「気持ちかった」と言った。
「…臣クン好き。…ドキドキした」
「……」
ああ、何度受け入れて、俺を許してくれるのか。許される度その優しさに甘えてしまう。甘えたその先で、ただの動物に成り下がってしまう。自分が信じられなかった。だって耳元で囁かれたその言葉だけでもう、こんなに息が荒くなってしまうのだ。
 太一が俺の首筋や鎖骨に優しくキスを繰り返す。続きをしてと催促されているような気がしてたまらない。
 好きだと思う気持ちと比例して、太一を大事にできれば良いのに。その二つが伴ってくれないのは何故だろう。欲望は止めどない。ずっと内側から湧き続ける。
「…太一、後ろも触りたい」
「……」
「いいか?」
例え断られたとしても求めてしまうくせに、いちいち尋ねる自分の卑しさに気付いて内心嫌悪した。甘えている。俺はずっと、さっきからお前に。
 太一が目を瞑って小さく頷く。興奮でみぞおちが、視界が、カッと熱くなるのを感じた。
 息が荒くなるのを抑えることもできないまま、俺はそっと太一の後ろへ中指を近づける。ずっと、ずっと触りたかった。ずっと太一のここを知りたかった。一人想像して自慰するくらい渇望していたその部分に、今、やっと、初めて触れる。



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