大倶利伽羅君の好物

夕餉の仕度をしていると、彼女が顔を出した。
「光忠、今日はきんぴらが食べたい」
「いいけど」
「と言うわけで手伝おう、光忠は気にせず作業を続けてくれ」
「一品作ってくれると助かるよ、唐揚げは考えてたけど他のおかず決めかねてたから」
大きなボウルに食べやすい大きさにした鶏肉を入れて酒やみりんや醤油や生姜を入れて揉み込む。
彼女は鼻唄を歌いながらごぼうの泥を落としている。
「そう言えば唐揚げと言ったな?」
「うん」
「きんぴらもだ」
僕は彼女の考えていることがわからなくて思案する。
「なんだい?」
「二つとも大倶利伽羅の好物だな」
なんだそんなことか。
「昨日は馬当番がんばってたからね、ご褒美なんだ」
「私もだ、今日は長谷部も一緒だったのに大倶利伽羅が誉を取ってきてな!」
うちの本丸では長谷部君と蜂須賀君が誉ハンター二大巨頭だ。
それを抑えての誉とはすごい。
その二人がいたら僕は誉取るの諦めちゃうからね。
「いっそのこと汁物も大倶利伽羅の旦那の好物にしてやるか?」
今まで黙って聞いていた薬研君も楽しげに話に乗ってきた。
「いいな!光忠、大倶利伽羅はどんな汁物が好きだろう?」
うーん…好きな汁物…ねぇ?
魚のあらを使った潮汁…は、今日はそもそも魚じゃない。
豚汁…はきんぴらや唐揚げと被る。
うーん…。
僕はしばし考え込んだ。
「舞茸好きだよね…」
「味噌汁か?吸い物か?それが問題だな」
「あっさりした吸い物がいいと思う、三つ葉を散らせば彩りにもなるし風味もいい」
「承知した、俺っちに任せてくれ」
「うん、薬研君頼むよ」
分担通り作業を進める。
彼女は手際よく笹がきを量産しているし、薬研君は舞茸の房を裂いている。
僕は味の染みた鶏肉を揚げ始めた。
生姜と醤油の焦げるような、香ばしいいい匂いが漂う。
こんがりきつね色になったものから引き上げていく。
三人で一つずつ味見。
まぁまぁの出来だと思う。
今日のも美味しいけど、それで満足しちゃいけないよね。
できあがったものから広間に運ぶ。
そこには夕餉を待ちわびた皆が、まだかまだかと待っていた。
「はーい、順番にね!唐揚げは5個までだよ!」
待っていた皆が席に着いた頃、伽羅ちゃんが現れた。
まず、目についたのは唐揚げのはず。
伽羅ちゃんの表情がわずかに緩む。
次にきんぴら。
これには目を丸くした。
そして舞茸の吸い物。
あ、これはリアクション薄いな。
いつもの隅っこの席に座るのを確認して、僕と彼女は伽羅ちゃんを挟むように席に着く。
彼は黙々とご飯を食べる子だ。
表情もあまり変わらないからわかりづらいけど、これは機嫌がよさそうだ。
「どうだ?美味いか?」
彼女は恐る恐るといった具合で尋ねる。
咀嚼していたものを飲み込んで、伽羅ちゃんは一言。
「…美味い」
「そうか、ならよかった」
彼女はそう満足げに微笑む。
「伽羅ちゃん、こここうした方がいいとかあったら教えてね?」
「…きんぴら…辛味が足りない」
「ふむ…難しいことを言うな…まぁ短刀用に甘めを作ればいい話か」
「辛味って言うのは唐辛子でいいんだよね?」
「あぁ、その方が食が進む」
「覚えておく」
そうして伽羅ちゃんが完食するのを見届けて、僕達は後片付けをすべく食器を運ぶ。
しばらくすると伽羅ちゃんが厨房に顔を出した。
「…手伝おう」
「うん、じゃあ洗ってくから濯いでくれるかな?」
洗剤で食器を洗い、伽羅ちゃんに渡していく。
伽羅ちゃんは濯いだものを水切りに置いていく。
彼女はそれを乾いた布巾で拭っていった。
「今日は…」
「ん?なぁに?」
「…ありがとう」
「何がだ?」
「…俺の好物だ」
ふふふ、かわいいなぁ。
僕と彼女は顔を見合わせた。
「「たまたまだ」」

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