収穫したら…料理してあげようか…?

野良仕事に帽子が手放せない季節になった。
春から初夏に移ろう今からが一番紫外線が強い時期。
今更シミやら小じわを気にするのではないのだが…。
日焼けをしたら真っ赤になってしまうため日焼け止めと日除けの帽子が手放せない。
そんな私が何故野良仕事をしているのかと言えば、私のワガママからだ。
私はトマトソースのパスタが食べたかった。
それもトマト缶ではなく生トマトをミキサーにかけジュースにし、煮詰めて作る贅沢なソース!
生のトマトだけしか使わない。
それ故これがとても美味しいのだ!
こう…生のトマトのジューシーさを煮詰めて作られるシンプルさなのに、味はとても奥深いものなのだ。
もちろんトマトにもよるのだが、トマト缶とは比べ物にならない。
だがしかし、材料調達の手間がかかる。
生のトマトだけを贅沢に使うため、お金がかかるし何より仕入れの問題がある。
トマト農家ならいざ知らず…ここはちょっと家庭菜園が好きな本丸だ。
作るとなったら約40人分。
皆で同じものを食べたいから。
最近は人数も増えたから、スーパーでの買い物ではなく業者に頼んでいる。
で…今日トマトの収穫を手伝っているのは、普段どの程度収穫できているかの確認のためだ。
今日はトマトサラダに鳥の心臓と砂肝の山椒焼きにキャベツの味噌汁に新生姜の漬け物だ。
今日の収穫の量を参考に今度生トマトソースパスタをする時に、どの程度トマトを買うかを把握する。
どれくらい発注するかわからないと話にならない。
そのためのお手伝いだったが…。
「収穫したら…料理してあげようか…?」
まさか旦那様が野菜を口説いているところを見ることになるとは思わなかった。
「何してんの…?」
私は茫然と尋ねた。
「こうやって声をかけると美味しくなるような気がして」
にこやかに返されて、彼はそういう男だったと思い直した。
「マジで?」
思わず聞き返したら、ほわほわした笑顔で返される。
「うん、美味しくなってると思うんだけどな」
「収穫したの全部に?!」
恐る恐る尋ねたら彼は胸を張ってこう答える。
「うん」
「……………」
「……………」
「光忠って時々わからない」
「えー?そうかなぁ?」
などと彼はいつもの調子で収穫を続ける。
かごいっぱいのトマトは…大体20個くらいか。
4人分で6個必要で…あぁ、考えるの嫌になってきた。
箱買いしたら一箱20個くらい入ってるから…。
多目に作らないとだから…うわぁ…。
トマトの値段と量を思うと頭を抱えたくなった。
「そんなに美味しいの?生トマトのソース」
「アンチョビ入れなくても美味い」
「え?!何それすごい!」
アンチョビはイワシの塩漬けだ。
旨味の塊だ。
トマトの旨味と合わさることで相乗効果は倍以上。
それがなくても美味しいという生トマトのソースのパスタ、すごい。
「うん、贅沢で滅多に作らない」
「生トマトと塩だけで…すごいなぁ…」
収穫を終えたトマトを持って厨房へ。
収穫したトマトはサラダに。
私は端末で発注をかける。
「じゃあ発注かけるね、明後日でいいかな」
「うん、楽しみにしてるよ」
今日の鶏の心臓と砂肝は山椒がほどよく効いていて美味しかった。
トマトも甘酸っぱい、美味しいトマトだった。
なるほど、声をかけたら美味しくなるという彼の言うことは本当なのかもしれない。
そして時は流れて2日後。
大量のトマトが届く。
そして収穫したトマトも一緒に…。
大鍋にオリーブオイルを流し込む。
火を入れて、そこへミキサーでジュースにしたトマトを次々流し込む。
とろ火で煮詰めて塩味を整えると完成。
作り方はいたって簡単だ。
サラダを作っていた彼や大倶利伽羅、スープを作っていた薬研に味見をさせる。
3人とも、ものすごく驚いている。
「オリーブオイルとトマトと塩だけでこの味か?!」
と興奮気味の薬研。
「すごい…トマトの旨味を塩が引き立ててる…シンプルイズベストだね!」
と解説している彼の横で大倶利伽羅が目を見開き、もう一口と味見をしている。
「じゃあパスタを茹でていこう、皆腹ペコだろうから」
短刀達から配っていったが、皆には概ね好評だった。
そうして人心地ついて彼と私も食事を摂る。
彼と私は隣同士に座って。
パスタとソースを絡めてフォークにくるくるしてぱくり。
「あー…うまー…」
手が止まらない。
空腹にこの美味さ、暴力でしかない。
「ホント美味しい…美味しい料理を作ってくれる奥さんがいて僕幸せだよー」
「光忠の料理も美味しいじゃない」
「でも君に美味しい料理の存在を教えてもらわなかったら僕料理してないよ」
「そんなもん?」
「そうだよ」
そう言って彼もフォークにくるくるしてぱくり。
「あ、そうだ」
「何?」
彼はフニャッとした顔で笑って、顔を私の耳元に寄せる。
「美味しい料理ありがとう、あとで君も料理してあげるよ」
にんまり笑って食事を続ける彼と違い、囁かれた瞬間から顔を赤くして固まった私を周囲はいぶかしげに眺めるのだった。
ちくしょう、あとで覚えてろ。

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