チョコよりも甘いもの

昼餉のあとで、これから事務仕事をがんばろうかという頃。
「頼みがあるんだ」
にっこり笑って彼が言う。
あぁ、やだやだ…。
嫌な予感しかしないぞ?
「何?」
「君はがんばりすぎだ、もっと僕に甘えてもいいんだよ?」
…また何を言い出すかと思えば。
「散々甘えてるでしょ?」
「そうかな?」
「そうだよ!これ以上甘えたら腑抜けになる!」
「そういう君も見てみたい」
「ばーかばーか!仕事するわよ!」
「ねぇ、本当に甘えてくれない?」
「…何企んでる…?」
「何も?」
嫌な予感はするがいつまでも彼と遊んでいられない。
端末に向き直り報告書の作成をする。
そろそろ月末なので月例報告の書類を作らねば。
「何か手伝うことはある?」
「遠征で得た資材の表作ってもらえたら嬉しい」
「オーケー、まかせてくれ」
私は手入れで使った資材の表の作成をする。
これが終わったら刀装作成で使った資材の表。
それから資材消費の原因も補足で入れておく。
今回資材の消費が多かったのは、京都市街へ出陣するための前準備。
短刀達の鍛練のために出陣し、結果刀装を失って帰ってくるということが続いたせいだ。
打刀達が何人か育ってはいるが、それでも京都市街へ繰り出すには頭数が足りない。
もっと戦力の幅を広げなくては。
そう考えていたら彼は仕事を終えたらしい。
すぐにデータを寄越してきた。
「ありがとう」
「他にやることは?」
「じゃあお茶淹れて」
「いいよ」
しばらくすると、彼がミルクティーを差し出した。
牛乳たっぷりのミルクティーが好きな私好みのミルクティー。
私はバレンタインの時におやつにすべく買ったチョコレートを取り出し、彼の口に運んだ。
「ご褒美」
「ん…ありがと」
私はミルクティーを一口。
そうしたら彼もチョコレートを手に取って私の口元に運ぶ。
「はい、あーん」
彼を見ればにっこり笑って、私が食べるのを今か今かと待っている。
恥ずかしいけど彼の手にかぶりついてチョコレートを食べる。
「なんかムカつくわ」
「どうして?」
「どうしても!」
ふいっと背を向けると彼がのしかかってきた。
「重い」
「結局君が甘えるより僕が甘えてしまうんだ…」
「光忠の甘えん坊は今に始まったことじゃないでしょ」
「僕は君を甘やかしたいのになぁ」
「…夜になったらたっぷり甘えてるでしょ」
「それだけじゃ足りないんだよねぇ」
そう言ってのしかかるのをやめた。
何をするのかと思えば、顔を掴まれて唇を塞がれた。
軽く舌を絡ませて離れてまた舌を絡ませて。
必死の抵抗も彼には些細なことなのだ。
馬鹿力なんだから。
「まだ仕事中だばか」
ようやく離れた時に息も絶え絶えになりながら一言文句を言ってやった。
「ちょっとくらいいいだろう?」
「よくない!」
私を抱き締めようとする腕をぺしりとはたき、彼の身体を引き離す。
「じゃあ仕事中僕が盛らないように普段からもっと甘えてくれないかな?」
「無茶言うな、いっぱい甘えてる!」
「もっと」
「回数?濃度?」
「両方」
「…人前でいちゃつきたいのか?」
「ダメ?」
「ダメ」
「…わかった」
「えらく素直に引き下がったな」
「そのかわり二人きりの時はうんと甘えてね?」
「だから今でも甘えてる…」
「うん、もっと」
「やだ、めんどくさい」
「冷たいなぁ、君って人は」
「泣き落としには乗らないからな」
「ちぇっ、残念」
まったく…甘えん坊な夫を持つと苦労する。
しばらくは彼を甘えさせる日々が続きそうだ。
…子供でも作ったら彼の甘えん坊は治るのだろうか?
そんなことを考えながら、次の仕事の算段を始めた。

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