チョコレイトディスコ

今日はチョコを買いに、よその本丸のお嬢さんとデートである。
もちろんコーディネートは彼がしてくれた。
ワインレッドのチェックのワンピースに黒い柄タイツにロングブーツ。
それに黒いコートと白いスヌードを合わせて。
お化粧は乱と次郎が。
二人の手並みもさすがである。
彼は何か言いたげだったが、私は女の子とのデートを満喫することにした。
たまには私にばかりくっついてないで、彼ものびのびすればいいのだ。
ゲートの前で乱と次郎と彼が見送りをしてくれた。
「じゃあ行ってくる!」
「行ってらっしゃい」
「おう!楽しんどいで!」
彼はというと浮かない顔で黙ったまま。
「何だ?一緒に行きたかったか?」
脇腹を小突いてやると抱き締められた。
「仕方ないやつだな、光忠」
乱と次郎も見てるのに。
ぽんぽんと背中を叩いてから離れようとするが、彼の腕は離れない。
「今生の別れでもなしそんな顔するな…ちょっと買い物に行くだけだろう、このだめんずめ」
「うん…」
あ…こりゃダメだ、これ重症だ。
「カッコ悪い」
「うん」
「乱も次郎も見てる」
「うん」
「…お前は母離れできん3歳児か!」
「肉体を持ってまだ1年経つか経たないかだよ」
「ああ言えばこう言いおって…遅れるからいい加減にしろ!」
「うん…」
渋々離れた彼の尻を叩く。
「シャキッとしろシャキッと!」
「うん」
「乱」
「終わった?」
乱も私達の夫婦漫才など見慣れたもの。
すんなり流してくれて、ありがたいやら恥ずかしいやら。
「おやつ時に光忠にホットケーキ作らせろ、乱の分だけじゃなく短刀の分全部だ!他にも食べたいと言う者がいれば作る方向で!」
「了解!」
「やること作らないと部屋でいじけてそうだからな、光忠」
「アハハハハ、伊達男の面目丸潰れだねぇ」
「まったく…光忠がここまでぐずるとは…じゃあ今度こそ行ってきます」
そう言ってゲートを潜る。
待ち合わせの場所で待っているとひばりちゃんがやってきた。
一言で言うとかわいい。
ベージュのコートにチョコレートブラウンのマフラー。
白いニットにマフラーの色に合わせたショーパンに黒いタイツ、赤いブーティがポイントだろう。
清楚かわいい!
「遅れました?」
「遅れてないよ、大丈夫!行こうか」
向かう先はデパート。
バレンタイン特設会場とデパ地下スウィーツエリア。
見た目も綺麗なチョコレートの数々にうっとりする。
食べても美味しいんだろうな。
食べるのもったいない。
でも美味しそう…。
「そういえばチョコレート、どんなのにするか決めてる?」
あちこち眺めながら尋ねてみる。
ひばりちゃんは首を振った。
「いえ」
「うちの山姥切とは違うからこの傾向があってるとは限らないけど…凝った見た目よりもチョコレート!って見た目のが食べてくれると思う」
「そういうものですか」
「あくまでも私見と想像だけど…凝った見た目のだと『写しの俺にこんなもの…』って言いそうだし」
「あー…」
「個体差はあるだろうけど、山姥切はシンプルなものを好みそうだなというのもあるしね」
「なるほど…躑躅さんはどんなのにするんです?」
「ブランド指定されてるからそこのを適当に…あと自分用にいくつか買おうと思ってる!」
と言うと、ひばりちゃんは声を上げて笑った。
「食いしん坊ですねぇ」
「踊らされてるのはわかってるけど、美味しいものが食べられるなら乗らざるを得ない!」
まぁそれだけではないのだけどね。
「それに指定されてるブランドがお高いから…そのブランドでなくとも美味しいものはたくさんある…というのを知らしめる目的であいつに食わせるためだね」
「…早い話、のろけです?」
「否定できないところだね…でも来年からあんまり高いものねだられないための先行投資って部分も大きいよ」
「先行投資」
「そう、先行投資…と言う名目でやっぱり自分のおやつを増やす作戦」
「やっぱり食いしん坊なんですね」
「もちろん!そういや義理チョコどうするか決めてる?」
「いいえ」
「うちはちょっと高価な板チョコを配ることにしました、まぁ高いって言っても国外ブランドだから国内のよりちょっと高い…くらいなんだけどね」
「板チョコ」
「なんなら義理チョコは買ったもので本命には手作りでもいいし」
「買う方が楽です」
そこはきっぱり言い切った。
気持ちはわかる。
だって目分量で作っても美味いのは、ホットケーキとスコーンくらいなもんだ。
お菓子作りで大事なのは計量である。
この作業が結構めんどうだったりするから。
「料理はともかくお菓子作りは大変だしねー光忠はよくやると思うわ…」
結局ひばりちゃんはチョコをたっぷりコーティングしたシガールを見つけ義理チョコとして選んだ。
普通のシガールも美味しいけどこれも美味しそうだな。
さすがに数が数なので配送してもらうようだ。
「あとは本命用だねぇ」
にやにやしていたらひばりちゃんはトリュフチョコを手に取る。
その素朴な見た目に反し、豊かな味わいのトリュフチョコは山姥切の舌をも満足させるだろう。
何を言っても、美味いものの前にはひれ伏すしかないのだ。
それは人だろうと神だろうと妖だろうと変わらない。
私もいろいろなブランドのチョコを見て回り、いくつか買ってみる。
シンプルなトリュフチョコに、かわいらしい形をしたカラフルなチョコ。
お抹茶のチョコも美味しそう。
いろいろ買い込んで疲れた私達は、お茶をすることにした。
ケーキセットでいいかと思ったけど…アフタヌーンティーセットがある!
お腹も空いたから頼んじゃえ!
と私はアフタヌーンティーセットを頼む。
甘いものだけでなくしょっからい食べ物も食べたくなるのだ。
ひばりちゃんはケーキセットを頼んでいる。
「この量食べるんですか…?」
「どれも一口サイズだから見た目ほど量はないよ」
「そうです?」
「うん、量は多くない!一口サイズ!いる?」
「じゃあひとつ」
とひばりちゃんはサンドウィッチに手を出す。
「あ、美味しい」
「結構イケるよね!光忠にも食わせてやりたいなぁ…また来よう」
「躑躅さん、本当に燭台切さんがお好きなんですね」
「え…?うん…まぁ…ね」
私が言葉に詰まるとひばりちゃんは人の悪い笑みを浮かべる。
「お熱いですなぁ!」
「やばい超恥ずかしい…本丸だともう皆から生暖かく見られてるから冷やかされるの恥ずかしい!」
「どんなところ好きになったんです?」
「黙秘します!」
「却下します」
「ご無体な」
「早く言わないと…」
「言わないと…?」
「スコーンとケーキが犠牲になります」
そう言ってスーっと手が伸びてくる。
「慈悲の心はないのですか?!」
「さぁ吐きなさい」
「嫌じゃ…吐きとうない…」
「スコーンもーらい」
ひばりちゃんの手がスコーンにかかる!
「やーめーてー!はーなーしーまーすー!」
「さぁさぁ!」
「うぅ、食べ物を盾にするなんてひどい…」
「躑躅さんチョロい」
「女の子と食べ物にはチョロいの…」
「燭台切さんにもでしょ」
「うっ…」
痛いとこ突かれた。
反論できねぇ。
「躑躅さんホントチョロい」
くいっと紅茶を一口。
口火を切った。
「…だってね、長谷部とかが来るまでは近侍は光忠か蜂須賀でね…光忠が近侍だったらそれこそ四六時中一緒にいるわけですよ!」
「どうして?」
「うちは最初の頃、私と乱と光忠で厨房回しててね…ご飯時除いたら絶対に数時間は同じ仕事してるわけで」
「あー…なるほど」
「乱はかわいいし光忠もかわいいし…ひいきする訳じゃないけど、同じ仕事して顔付き合わせてると仲良くなるのは早いでしょ?」
「はいはい」
「で、今にして思えば光忠はその頃からすでに私に気があったわけだ…だからやたらスキンシップしてくる…勘違いもするわ!」
「あー…」
「やたら優しいし気づかい上手だし、付き合いだしてからも優しいし…今までだめんずにひっかかることが多かった私は少しどころか今でもなんで『こいつ私の婿に収まってんの?!』って思う!」
「だめんず…」
「田舎はね…いい男は都会に出るし地元残ってても彼女持ちか結婚してるしね!DQNしか残らねぇ…」
「ある意味だめんずですよね、燭台切さんも」
「そうなんだよねぇ…個体差あるだろうけど、うちのは絶対にだめんずだろうねぇ…」
「でもギャンブル激しいとかDV野郎の方向じゃないからいいじゃないですか、家事も協力的だし仕事もこなすし」
「でも時々うっとうしい…好きだけどいつも一緒にっていうのは重たい」
「…それは贅沢な悩みです」
「…そうか…そうだねぇ…」
「うちのまんばときたら塩対応しかしないし!難攻不落すぎる!厚樫山だってもっと簡単だし!」
「よしよし…」
「正直あれをどないせいと!」
「…押し倒し…」
「やった!」
「やったか?!」
「すぐ引き離された!」
「あー…」
「まんばあのやろおおおおおおお!」
「とりあえず暴力沙汰をやめるとこから始めてみよう、殴りたくなったらハグね!オーケー?」
「難しい…」
「難しいじゃないの、やるの」
「それでまんばが態度を改めるとは…」
「でも敵意がないのはわかってくれるはず」
「それだけじゃダメなんだ…」
「焦ってもダメだよ…ああいう子は徐々に落としていかないと…」
「気 が 遠 す ぎ る 話 で す」
「江雪さんの真似上手いね?!」
「和 睦 の 道 は な い の で し ょ う か」
「押してダメなら引いてみるのも手…だけど…まんばちゃんには逆効果かもだしなぁ」
お手上げだ。
ひばりちゃんとこのまんばちゃんは手強い…。
妙案も浮かばぬままお別れの時間だ。
また遊ぼうねーと別れて本丸に戻る。
帰るなりゲート前で体育座りの彼がいた。
「ただいま」
「おかえり、楽しかった?」
立ち上がろうとする彼を押し止めて頭を撫でる。
「あはは、セットした髪が崩れちゃうよ」
「その程度で光忠の男ぶりは落ちるの?」
「君次第」
「じゃあ撫でられとけ」
とは言うものの彼は気に食わないらしく、私の手を取って口付けた。
「どうしたの急に」
私の手をそれは愛おしげに頬擦りしながら尋ねる。
本当にそうしてると、かわいくて仕方ない。
「…光忠はかわいいなぁと思っただけ」
「カッコいいの方が嬉しい」
「カッコいい?どの口が言う…この甘えん坊め」
「君の言う通り、ホットケーキいっぱい作ったよ」
「お疲れ様」
「労いのキスが欲しいな?」
「あとでね」
「今がいい」
「ワガママ言うな、誰かに見られたら…!」
「誰も来ないよ」
「何で?!」
「僕がそう頼んだから」
…本当にズルい男だ。
「…ちょっとだけだからね」
彼の言う通りにするのも癪だし、それに舞い上がる自分も馬鹿だ。
最近彼に流されてる。
公私混同はいけない。
そう思いつつも彼を受け入れる私がいた。
こうして交わす口付けの、背徳感と高揚感は言葉では言い表せない。
まったく…私もダメな主だな。
今更か。
耳元で甘く囁かれる言葉にゾクゾクする。
「チョコレート」
「うん?」
「楽しみにしてるね」
でも中身は食い気だ!
「いっぱい買ってきたから期待してて」
「ありがとう」
「さて、夕餉の仕度をしなきゃね?今日は何?」
「今日はカキフライ」
「やった!」
ヒャッホー!と部屋に荷物を置きに帰る私を見守る彼の眼差しは、とても優しいものだった。

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