ぽんぽん

「小夜、小夜」
呼ばれて振り向く小夜に微笑みかける。
他の短刀達と比べてもやや小柄で痩せたこの子がかわいくて仕方ない。
妙に庇護欲をそそると言うか…。
彼も立派な刀剣男士なのだから、こう言っては失礼なのだが…。
それでもかわいいものは仕方がない。
「なに…?主」
「小夜の兄様達も呼んでお茶にしないか?」
「いいけど…」
「うん、ではそうしよう」
今の時間なら江雪は部屋にいるだろうし、宗三も同じくだろう。
厨房に行ってよもぎ餅を4つもらいお茶を淹れた。
よもぎ餅は小夜に持ってもらい、足早に左文字部屋に向かう。
「江雪、宗三!お茶にしないか?」
浮かれた私とは対照的に、ローテンションな二人が何事かとこちらを見る。
「お茶にしよう」
「おやおや、燭台切はいいんですか?」
呆れたように宗三が言う。
むむむ、負けない。
「小夜やお前達とお茶をしたいと言うのが悪いのか?」
「ふふ…宗三、お誘いを受けましょう」
「さすが江雪、話がわかる」
畳に盆を置きお茶を勧めた。
小夜がよもぎ餅の小皿を手渡していく。
配り終えた小夜はよもぎ餅を静かに食べ始めた。
あぁ、本当に小夜かわいい。
「何を企んでいるんですか?」
「人聞きが悪いな宗三、小夜を愛でたい…小夜一人を愛でたら不公平…だったら3人まとめて…だ」
「3人まとめて…ね…」
また宗三は呆れたように溜め息を吐く。
宗三にあまり好かれていないことはわかっている。
でも、私にとっては…。
「だってお前達は私の大事な仲間なんだから」
「貴女…僕達がなんであるか忘れていませんか?」
「刀の付喪神だろう?」
「…なのに貴女はまるで僕達を人のように扱いますね」
「ではどう扱えと?」
「刀は刀らしく扱えばいいんですよ、簡単なことです」
「人のように感情を持った相手を、モノのように扱うのは無理だよ」
私もよもぎ餅にかぶりつく。
さすが歌仙おすすめの菓子屋のよもぎ餅。
ふくよかなよもぎの香りも、あんの甘さも絶妙だ。
「宗三も食べるといい、歌仙おすすめの菓子屋のだから美味いぞ」
はぁ…とまた溜め息を吐いて宗三はよもぎ餅を口にした。
「貴女は…疑問に思ったことはないのですか?」
「何がだ?江雪」
「私達が人形を取ること、その意味について…」
「合理的だと思ったがな…確かに私でも歴史修正主義者とは戦える、だがな…頭数が足りないんだ」
「頭数…ですか」
「祓い屋をやれるような霊力の高い者は少ないからな、まして肉弾戦ができる者など…審神者ならそれほど霊力が高くなくても仕事に就ける…それこそ一般人でもだ」
私はよもぎ餅を食べながら続けた。
「だから、付喪神に頼るのは合理的だと感じたよ…まして刀の付喪神…戦闘のエキスパートだろう?」
そう…まぁ和泉守などはまだ比較的新しいが…何百年と存在する、刀の付喪神だ。
ある刀は神社に奉納され御神刀に。
ある刀はその家の護り刀に。
ある刀は博物館に納められ国宝や重要文化財として展示、保管されていたり。
それらはどこかでまた、振るわれることを望んでいたのではなかろうか?
「そうですね…確かに…争いは好みませんが、命のやりとりには慣れていますからね…」
「審神者は、刀の付喪神を人形に顕現させ戦闘の際に指示を出すのが大きな仕事だと思ってる…まぁ実際はそれだけじゃないが…」
今度はお茶をすする。
「それ以外に何があるんです?」
「人形をとったことでお前達は人間のように悩んだり苦しんだり悲しんだりすることだってあるだろう、そのケアも私の仕事だ」
「僕達の悲しみが、貴女如きに癒せると?」
苛立ちを隠しもしないで、宗三が呟くように言った。
「そこまで傲慢なこと思っちゃいないさ、でも…抱え込まずに話して欲しい…私にぶつけて欲しい…そしたら…少しは気も紛れるだろう?」
「それは、仕事だからですか?」
「それ以上に仲間だからだ、悲しんだり苦しんでたら…何とか力になりたいからさ」
「それが傲慢なことなんですよ」
「まぁ宗三、主なりに心を砕いてくれているのです…好意は受けましょう」
「主は、優しいんだね」
「そんなんじゃないさ、当然のことだ」
小夜の頭を撫でる。
あぁ小夜、かわいいのはお前だけだよ…。
お前の兄様達のなんと気難しいことか。
江雪は言い方こそ一見好意的に聞こえるがとんでもない。
楽しんでるな、くそぅ。
「今すぐじゃなくていいさ、私をいびって気がすむならそうしてくれ」
「おやおや、殊勝なことで…そんなことを言っていいんですか?」
「光忠が八つ当たりされるだけだよ」
「燭台切が気の毒ですね」
「そう思うなら円滑な本丸運営に協力してくれ」
「なら僕を戦に出してください、飾り物にされるのはごめんだ」
「だから少しずつ出してるだろう?練度上げに…」
「もっとですよ」
「意外と戦闘狂なのか?宗三は」
「戦闘狂?己の本分を全うしたいだけです」
ぽんぽんと宗三の頭を撫でる。
宗三は嫌そうに手を払うが構わず撫でた。
「宗三もかわいいなぁ」
「うるさいですね、この手をどけなさい」
「嫌だねー、かわいいかわいい」
「ふふ、微笑ましいことです…」
「江雪…まさか自分には累は及ばないと思ってないか?」
そう言って今度は江雪の頭を撫でる。
「…楽しいですか?」
「小夜だけ愛でたら不公平だと言ったろ?」
「燭台切が妬きますよ?」
「妬かせるんだよ」
「私を巻き込まないでください…」
「燭台切も物好きですよね」
「それはどうも」
「誉めてません」
「小夜だけか?かわいいのは」
「ぼくは…かわいくないよ…」
「かわいいよ、お前達は…愛おしいよ」
「僕達をそんな風に扱うのは貴女くらいなものです」
「ありがとう」
「ですから誉めてません」
「主は、楽しい?」
「楽しいよ、こうしてお前達とお茶を飲めるのは楽しい…小夜はかわいいしな!」
「だからぼくはかわいくない…」
「謙遜するな?私は小夜のかわいいところ、知ってるんだぞ?小夜だけじゃない…宗三も江雪も!」
「僕達まで巻き添えにするのやめてもらえますか?」
「かわいいのに…」
「ぼく…兄様達のかわいいところ聞きたい…」
「おっ、そうかそうか!聞きたいか!」
「小夜…」
「まず江雪な!存外大雑把なところ…かわいいぞ?」
「大雑把…ですか?」
「料理してる時に味付けは目分量だろう?まぁそれでも美味しいけど…細かそうな印象があったから意外だと思ったと同時にかわいいとも思った」
くいっとお茶を一口。
うん、適温だ。
「あと材料切ったりするのも大雑把なとこあるしな」
「よくそんなところまで見ていますね」
「…そうなんだ」
「宗三はな、そうやって突っ張ってるとこ…かわいいぞ」
「うるさいですよ」
すごく不服そうな顔をした宗三の頭を撫でてやる。
更に嫌そうな顔をしたが気にしない。
「小夜は、大倶利伽羅達と猫をかわいがっているだろう?その姿を見た時にかわいいなぁって思った」
「ぼくがかわいいわけじゃないのに…?」
「かわいいよ、恐る恐る猫をかわいがる姿…上手く言えないけど…かわいかった…愛おしいと思ったよ」
宗三が大袈裟に溜め息を吐き言った。
「貴女本当にそれくらいになさい、燭台切が嫉妬で泣きますよ?」
「うわぁ、泣かせてみたい…」
「燭台切が気の毒です」
「あいつも大事だけどこの本丸にいる皆、大事だよ…愛おしい仲間達だ」
「貴女って、馬鹿ですね」
溜め息を吐いて宗三がお茶を飲んだ。
「馬鹿じゃなかったら、不器用ですかね…まったく…僕達によけいな気ばかり使わせて」
「私は…貴女のそういう律儀なところ、嫌いではありませんよ?」
「むぅ…」
私が唸るとよもぎ餅を食べていた小夜が私の方に向き直る。
「主は、ずいぶんとかわいらしくなったね」
そう言って小夜からぽんぽんと頭を撫でられた。
小夜はそこそこ古株だ。
まだ最初の頃の、鉄の女であろうとした私を知っている。
だから、小夜は言うのだ。
しかしこの展開は想定外だ。
「おや…」
「ざまぁないですね」
驚きのあまり固まる私を見て、江雪と宗三は実に楽しそうに笑う。
そして、二人からも頭を撫でられた。
「むぅ、これではどちらがかわいがろうとしたのかわからないじゃないか」
「貴女はおとなしく燭台切にかわいがられていなさい」
そう言って二人はお茶を飲み干して盆の上に戻す。
「さぁ、お茶会は終いです…燭台切のところにお行きなさい」
盆を持たされぐいぐいと部屋から押し出される。
宗三のやつ細っこいのにどこにこんな力が…。
湯飲みを落とさないようにするのに必死で追い出されてしまった。
厨房に戻ると彼は歌仙と今日の献立について話していた。
私の姿を見るや、歌仙がにやにや人の悪い笑みを浮かべる。
おい、その表情雅でも風流でもないからな。
「左文字達とのお茶会は楽しかった?」
「あぁ」
「そう、よかった」
歌仙と彼はぽんぽんと私の頭を撫でる。
「おい」
二人の手を掴んでやめさせるが、空いた手でまた撫でられる。
「かわいいかわいい」
「主はかわいいねぇ…ねぇ?燭台切君?」
「あげないよ?」
「さすがに欲しいとは思わないよ、時々こうして撫でるだけで充分さ」
そう言って歌仙は手を離した。
「私は猫か何かか」
「燭台切君の飼い猫だね」
それを聞いて彼はツボに入ったらしく笑い出した。
「あ、あははははは!オーケー僕の…」
「貴様そのツラとその声で『僕の子猫ちゃん』とか言い出したら引っ叩くからな?」
ドスを利かせて釘を刺したら、まだ笑いながら私を抱き締めた。
「えー?ダメ?」
「離せばか歌仙の前で…!」
「僕は構わないよ?」
「歌仙君もああ言ってるし」
「ざっけんなばか離せばか!ばかばかばか!」
「主は悪口のレパートリーが少ないのかい?」
「そうなんだ、かわいいだろう?」
「むきぃぃぃ!覚えとけばか」
「はいはい、かわいいね君は」
片手は腰に回され、もう片方は後頭部に。
「いい子いい子…いい子だから機嫌直してね?」
「むきぃぃぃ!やなこった!」
「ホントにかわいいね、主は」
「だろう?」
「お前ら…覚えとけ…」
「おぉ怖い怖い!燭台切君、主を責任持って部屋までお連れしてくれたまえよ」
「オーケー、まかせてくれ」
そう言うと彼は私を姫抱きにして抱え、私の部屋に向かう。
部屋に着いたら、たっぷりキスされてかわいがられたので噛みついてやった。
「悪い子猫ちゃんだ」
「ふざけ…おい!」
彼が夕餉の仕度をしに行くまで、猫をあやすようにかわいがられた。
まったく、何て日だ…。
左文字兄弟に構いすぎたバチでも当たったってのか。
とりあえずしばらくは子猫ちゃんて言うたびに彼の頭を叩いてやったのだった。

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